本当のキモチ①

前書き

ゲーム中、バルバ島レイヴ救出の辺り。「会いたい」の後の話。気持ちは伝え合ってはいないものの、以前より親密になったような気がする二人。グリフィンの依頼先を訪れていたウィニエルが妙に突っ掛かってくる。それを変に思ったグリフィンはウィニエルに問う。勇者レイヴがバルバ島の牢に捕らえられているから助けて欲しいらしい。勇者レイヴって誰じゃー!?とグリフィンの胸中は複雑で……。ありがちネタなので微妙ですが、やはり最後には天然炸裂。

 今回依頼された土地には何の事件もなくて、俺は暇を持て余していた。
 同行もしてたし、途中モンスター共も出たけど、実際依頼地についたら何もなくて。
 最近的確に依頼をしてると思ったあいつにしては珍しいなと思ってたんだ。


「アホか!!」


「ええっ!? な、何で!?」

 真夜中、

 宿の一室で俺の怒号が響いた。
 怒られている相手は、あの天使だ。

 ウィニエル。

 今はおでこに両手を当てて半分涙目で口をへの字にして俺を見ている。
 それは俺がデコピンしたからなんだけど。

「俺の仕事に口出しすんなっつってるだろ!?」

 今まではここであいつが引き下がって終わってた。
 でも今日は何だかいつもと様子が違った。

「だって、これは私の仕事なんですもん!」

 ウィニエルが部屋に散らかった金品を拾い集める。

「あっ! 何すんだよ!」

 俺は慌てて、ウィニエルの手を制止するように両手首を掴んだ。
 あいつも多少抵抗したが、俺の力に敵うわけなくて、

「いたっ!離して下さい! ……盗った所に戻します!」

 両腕を頭の上に上げると、抗議の目で俺を見る。

「……お前……いい根性してんじゃねぇか……」
「……っ……前にも盗みは駄目だって言ったじゃないですかっ!」

 あいつは怯まなかった。
 俺を責めるように尚も睨みつけている。

 俺は義賊だって何度も言ってんのに、こいつは全然理解しちゃくれない。

「……物から手を放しな」

 ウィニエルの手は固く握られ、そこに小さな宝石がいくつか収まっていたのを俺は見逃していなかった。
 その宝石が惜しいわけじゃなく、ただ、こいつが理解してくれないことが嫌で意地になってあいつの指を一本一本外していく。
 あいつの強張る細い指は俺の力で無理やりこじ開けられていく。

 ばらばらと。

 宝石が零れて、床に転がった。
 あいつの腕はまだ頭の上に上げられたまま、身動きが取れないでいた。

「……っ……どうしてわかってくれないんですかっ!」

 それでもウィニエルは俺を睨みつけていた。
 涙を溜めた瞳が悔しがってるのがわかる。

 他のことならあいつに合わせてもまぁ、許せる。
 だが、この件に関して俺は譲る気はなかった。

「……お前がわかれよ……」

 俺もウィニエルを睨みつける。
 何にもわかっちゃいない天使をわからせるには、こうするのが一番。

「うむっ!? んっ……」

 あいつの唇の弾力が俺に伝わる。
 ここは寒い地方だからなのか、あいつの唇はいつもより冷たい気がした。
 こうやって、キスをするのはもう何度目だろうか。
 舌を入れて、その先までいきたいけれど、あいつはまだそういうことに慣れてないみたいで。
 それに、今はあいつが怒ってるし、俺も怒ってるんだった。


 今はとてもそんな雰囲気にはなりそうにない。
 でもせめて、怒りくらいは収めてやろうじゃん?


 俺はウィニエルから唇を離した。


「……お前……今目ェ、閉じただろ」
「……閉じてませんよ……グリフィンが閉じたんでしょう?」

 ウィニエルは苦笑いを浮かべている。

「いや、閉じた。俺はキスの時は目を閉じるようにって教えたからな」

 一瞬だけ、口元を緩めて笑ってやった。

「……閉じてませんってば……それより、盗ったものを返しに行きたいんですけど」

 今日のウィニエルはどうも機嫌がものすごーく悪いらしい。
 苦笑いをやめてまた俺を睨みつけた。

「だから、これはいいんだって! ……何だよ……らしくないな。何かあったのか?」

 あいつのおかし過ぎる行動に俺は小さな疑問を抱いた。

 ウィニエルの訪問が増えたのは最近。

 俺はウィニエルが来る日にはなるべく“仕事”をしないようにしていた。
 何ていうか……うるさいからだ。

 でもこうしてみつかってしまうこともしばしば。

 だが、大体は不満気な顔でため息をついて終わっていた。
 それが今日に限ってこうも食って掛かって来る。


 何かあったに違いない。


「…………別に……」

 ウィニエルはしばらく間を置いて静かに俺から目を逸らした。
 あいつの視線が床に落ちる。

「お前ってさ、俺のことはわかってないくせに、本当にわかりやすいよな」
「え……?」

 俺はあいつの腕を離してやった。

「……あの……」

 手を離すとあいつはいつものようにしおらしく指を絡めて、上目遣いに俺を見た。

 この目をする時は何かある時だ。

 そして、俺はこの目が可愛いとも思う。
 絶対あいつには言わないけどな。

「何だよ? 何か言いたいことがあったんだろ?」

 ふっと一息ついて、俺は腕組みをして床に座る。

「……グリフィン……」

 ウィニエルの瞳がやっと穏やかになって俺の目の前にちょこんと正座をする。

 何でだか、あいつが座る時はいつも正座だった。
 多分俺が説教する時にさせてるからそれが身体に沁み付いているんだろう。

「で、何なんだ?」

「えと、ね……実は……お願いがあるんです。聞いて……貰えますか?」

 ウィニエルはおずおずと、俺に伺いを立てるように告げる。

 ……こんな時は決まってややこしいお願いだ。


 例えば、俺が何で勇者やってるとか、その言葉遣いはどこで習ったとか。


 大体、スカウトしてきたのはお前だろうが。
 今更そんなこと訊くな。
 言葉遣いなんか知るかよっ!!


 答えにくいから決まってデコピンの刑だ。


 ウィニエルは時折話の流れも読まずに、突然わけのわからないことを質問してくる。
 いつ、いかなるときも疑問を持つと直ぐにだ。

 まぁ、第一印象が“変な奴”だったからしょうがないが。
 今でもその“変さ”は変わってない。


 変わったのは俺。


 ウィニエルの“変さ”に嵌っちまった俺だ。

 ……というか俺も随分慣らされたもんだよな……と最近つくづく思う。

 あいつが何を言っても即座に対応出来る俺がいる。
 まぁ、面倒なことは考えもせずデコピンだけどな。

 あいつが俺のことをどう思ってるか、これが今一つ掴めないままだけど、多分悪くは思ってないとは……思う。

 キスだけは我慢できねぇからたまにするし、あいつも嫌がらない。
 嫌がらないから俺を想ってるのかと思いきや、キスした後いい雰囲気になったりは絶対ない。
 平気で「次の依頼地なんですけど……」と切り出す。

 そりゃ、俺も勇者だから天使の役目があるっていうのはわかるぜ?
 けど、せっかくいいもん持ってるんだからもうちょっと色気ってもんを出しゃいいのによ……。
 無理やり舌でも入れてやったら途中で頬を膨らまして俺の口ん中におもいっきり息吹き込むっちゅうわけのわからん抵抗をするし。
 その後はずっと笑顔で俺にそれ以上のことをさせちゃくれない。
 そんで、俺のその気が萎えて、結局それ以上の進展がなんもねぇし、あいつがどういうつもりでそうしてんのかもわかんねぇ。

 もう少し、そういうのに慣れてくれりゃあ、もっと可愛くなるのになぁ……。

 ……は置いといて、


 今はあいつのお願いってやつを聞かなきゃいけないんだった。


 あ、ついでに、あいつは俺が仕事をやめないことはわかってるからそれについては意外に言わない。
 つまり、さっき突っ掛かって来たのは単に気が立ってるからってことだ。

 気が立っているってことは……やっぱり何かあったのか?

「……うーん…………いいぜ。言ってみな」

 俺がそう告げると、あいつはしばらく間を開け、躊躇いがちに話始めた。

「…………勇者レイヴがバルバ島に捕らえられているんです。……どうか助け出しては貰えないでしょうか。もう発見してから三日経っていて……レイヴが亡くなったら私……」

「…………」

 勇者レイヴ?

 初耳だった。
 あいつの管理している勇者が何人かいるっていうのは聞いていたが、俺が知っているのはナーサディアとリュド…………何とかっていう奴だけで、まだ他にもいるらしいが、そいつの名前は初めて聞いた。

 そいつに深い想い入れでもあるのか、心底、心配してるような不安な顔。
 今にも飛び出してそこへ行ってしまいそうに心が逸って、ぎりぎりでここに留まっているような気さえする。

「……グリフィン、あなたは他の勇者の名前を出すと怒るから中々言い出せなくて……それで私までついイライラしてしまって……あなたに当たったりなんかして……」

 あいつの声がわずかに震えていた。
 早く助けに行かなければ、そいつは死んでしまうのかもしれない。

「…………」

 今、俺の心にあるのは、嫉妬心だ。
 最近気付いたが、俺は結構嫉妬深いらしい。

 けど、あいつがこんなに辛そうな顔をしているのを見るのは俺としても辛い所で。

「どうか……お願いします。レイヴを助けて下さい。こんなことを頼めるのはあなたしかいなくて」

 ウィニエルの瞳が潤んでいた。
 そういえば、今日は苦笑いを一度見ただけで、それ以外あいつの笑顔を見ていない。


 そいつは、お前から笑顔を奪ってしまうほど大切な奴なのか?


 いや、

 きっと、勇者レイヴっつーのは、天使ウィニエルにとっては大事な勇者なんだろう。
 それを救うためにあいつが俺に頼むということは、それだけ俺が信頼されてるってことだよな?

 そう無理にでも言い聞かせたとしたら、
 それなら、俺はちっぽけな嫉妬心を断る理由に出来ない。

「何で早く言わねぇんだよ!! 人の命が掛かってるんだろ!? 助けに行ってやるよ!」

「グリフィン!! あ、ありがとうございます!」

 俺が告げると、あいつの顔が少し明るさを取り戻した気がしたが、いつもの笑顔は見られないままだった。

 俺はそのままあいつの手を取り、灯りを吹き消して部屋から駆け出す。
 バルバ島までは、ここからならそんなに掛からない。
 真夜中だが、一刻を争う緊急事態だ。
 それに俺は夜に強いしな。

 変だと思ってたんだ。

 今回依頼された場所には何もなかった。
 平和になったわけでもないのに、ただのバカンスってこともないってわかってたし、多分、あいつは俺に頼むのタイミングを伺ってたんだと思う。

「……レイヴ無事でいて……!」

 ウィニエルは俺と手を繋ぎながら、繋いでない方の手で祈るような仕草をした。

「…………」

 助けに行ってやる。とは、言ったものの、
 その実、胸中は複雑だった。

 俺なら、きっとそいつを助けてやれるだろう。


 それで、ウィニエル、
 お前の笑顔が戻るなら。


 まずは、それだけでいいか、

 って。


 思ってたんだ。

to be continued…

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