その声で呼んで⑤

『ラミエルの元気な声、そろそろ聴きたくないですか?』


 俺が素直じゃないのは、わかってた。


「……べ、べっつに、聴かなくたって」


 誰にいいわけしてるんだ。ここには誰もいやしないのに。


「……俺、声聴きたいのか……?」


 自分自身に問いかけてみる。
 目を瞑って、胸に手を当てて。

『リュド!』

「……あの、元気な声、嫌いじゃないんだよな……。ムカつくけどそれは認める」

 ラミエルと言い合ってると、不思議と元気が出る。

 好きとか、嫌いとか。
 まだ、そこまで考えられない。


 でも、声が聴きたい。


「なぁ、ラミエル。俺の名前、呼んでくれよ」


 ぽつりと、つぶやいてみる。


 あんなに、苦手で、嫌いな女だったのに、



『会いたくなったら呼んでよね~』



 ラミエルの笑顔が浮かんだけど、



「絶対呼ぶもんか」



 呼んだら負けのような気がして、俺は呼ばずにいたんだ。
 どうせ、もうすぐ来るんだ。


「……リュド」

 ほら。
 ラミエルはちゃんと現れる。

 俺の前に天使が降り立って、その天使の翼に目を送ってみれば、翼が前より艶が増した……?
 ……気がする。

「なんだよ、遅いじゃん」
「えへへ、ごめんね~。さみしかった?」

 ラミエルは満面の笑みで翼をはためかせる。

「べえっつにぃ?」

 俺も、ラミエルに釣られて笑って応える。

「またまたぁ。素直じゃないんだから~。あ! あのね、依頼したい事件があるんだけどー、いーい?」

 ラミエルは来れなかった間のことを一切話そうとはしなかった。
 会いたくないと言っていたのに、こうして会いに来てるし、
 それは、俺に気を遣っていたのかもしれない。
 今も、そうなのかも。

「……ああ、いいよ」
「へ?」
「……なんだよ?」
「いやぁ……二つ返事なんて珍しいな~って思ってさ」

 俺の態度にラミエルが目を丸くする。

「……で、どこに行けばいいんだ?」


「あ、うん。あのね……」


 ラミエルの依頼を受けたのは久しぶりだった。
 というか、快諾したのは初めてだ。今までいやいや引き受けていた気がする。

「私も一緒に行くね~」

 ラミエルはモンスター退治だというのに、楽しそうだった。
 
「……いいけど、ちゃんとシールド張っとけよ?」
「え!? 何で知ってんの!?」

 ラミエルが口をぽかんと開く。

「……ウィニエルに聞いたから……」

「あ、ああ……そう……。ごめんね、迷惑掛けちゃったね」

 そう言うと、気まずそうに苦々しく笑って、頭を軽く下げた。

「……何で、あの時……」
「……うーん、たまたまだよ。うん、たまたま。気にしないで?」

 俺が訊き終える前にラミエルは喋り出して、俺に気にしないように言うが、それが返って気になる。

「……お前ってさ、身体弱いのか?」
「何で? 別に、普通だよ? ……あぁ!! ロジーが言ったんだ!? ったく余計なことを…」
「え……」

 ちっ、とラミエルは軽く舌打ちをして、頬を軽く膨らましてから、ふー……と一息ついて、こう続けた。
「……私ね、怪我とかすると、血が止まらなくなったり、重症になったりするんだ。でも、それだけだから。別に死んだりとかしないし。気にしないでいーよ」

 ただの体質だから。
 と、ラミエルは笑って応える。

「……何でそんな身体でシールド張らなかったんだよ……」
「いや、だからたまたまだって。それに、本当に体質だから。別に弱くないし。こないだの肘鉄とかすごかったしょ?」
 
「……ああ、まぁ……確かに」

 ラミエルの話題の摩り替えに俺は軽く相槌を打って流されそうになったが、

「……リュド、私のことなんか気にしてるヒマあったらウィニエルのこと気にしてあげなよ」

 こんなことを言うから、

「なんだよ、今お前の話をしてるんだ。ウィニエルの話なんかしなくていいだろ?」

 気がつくと俺はラミエルの身体を心配して、そう告げていた。
 話すのを避けてる気がする。
 何か、秘密があるんじゃないかって、そう思うんだけど。

 だが、ラミエルには俺の言葉が不思議だったみたいで。

「え? 何で? いっつもウィニエルの話ばっかしてるじゃん」
「え……そ、そうだっけ?」


「うん。そぉだよー。どしちゃったの? ウィニエルと喧嘩でもしたの?」

 屈託の無い笑顔で俺を見る。

 こうして見ると、確かに、ラミエルって……か、か、可愛い……かも。

「…………」
「リュド? どしたの? 今日何か変だよ」

 ラミエルの手が俺の両頬を優しく包む。
 ラミエルは地面に立っていて、背伸びをして俺を見上げている。

「う、確かに変かもな……」

 真っ直ぐに俺を見つめるルビーに吸い込まれそうになる。
 自分でも変だと思うよ。ホント。

 ラミエルが可愛いなんて思ったの、初対面の時以来だし。

「リュド」

 ラミエルが俺の名前を呼ぶ。
 ラミエルだけが、唯一そう呼ぶんだ。
 勝手に、俺の名前を省略して。

「なぁ、……ラミエルって、俺のこと好きなのか?」
「え? あ、うん。好きだよー?」

 ラミエルは俺の問いにいとも容易く答える。
 好きだけど、それが何? とでも言いたげに、明るく微笑んでいる。

「……俺は、お前のこと…好きじゃない」
「うん、知ってるよ?」

 また、それが何だとでも言いたいのか、表情は変わらない。
 でも、その笑顔が、今まで嫌で仕方なかった笑顔が、


 ……なぜか、嬉しく感じた。


「……かった……けど」
「うん?」

 夕暮れ近く、二人の影が重なる。
 翼の影が、もう一人の影に埋まる。

「…………」

 俺は無意識のうちに、ラミエルを抱き寄せ、彼女の唇に触れていた。

 と、同時。
 どんっ! と、胸に鈍い痛みが走る。

「……っ……!!」

「いっ!?」

 その衝撃に俺は一歩後ずさる。
 見れば目の前の天使が両手を目一杯伸ばし、俺を突き飛ばす格好で、目をぎゅっと閉じていた。

「……リュドのばか……っ……!!」

 刹那、ラミエルの瞳から大粒の涙が後から後から溢れ、頬を伝って流れ落ちる。

「何すんの!? こんなのっ!! こんなのナシなんだから!!」

 ラミエルは唇が腫れるんじゃないかと心配になるくらいに、手で俺が触れた場所を拭う。

「あっ……、ご、」
 
 そんなに、拒否しなくてもいいと思うんだけど、と少し傷ついた俺は謝ろうと、言葉を紡ぐ。


「……ごめん」


 最後まで言い終える前にはもう、ラミエルは俺の前から姿を消してした。
 やっぱり、ラミエルはロディエルと同じように姿を消すことが出来る。


「……なんだよ……、あんなに嫌がらなくたっていいじゃんよ……」


 俺だって、別にしたくてしたわけじゃない。


 たまたまだよ。
 たまたま。


 でも。


 ラミエルの泣き顔。
 初めて見た。


 泣き顔が、可愛い。
 なんて……思ってしまった。


 それに、

 やっぱり、女の子なんだって、改めて気づかされた。
 そう思うと、いままでの彼女の言動が、少し可愛く思えてくる。


「俺……どうかしてるよな……」


 ……その日を境に、俺はラミエルのことしか考えられなくなった。


 でも、やっぱり、ウィニエルのことは好きなんだけど――。

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後書き

新、天使ちゃんこんにちはです。

ラミエル&ロディエルを出してみました。
以後よろしこです。
ラミーはウィニエルとは違って、中々明るい性格なので書きやすいです。
ただ、性格が初期設定と微妙に違う。身体弱いとか、どこから出たよ……おい。的な?
ロジーは、初期からあんな感じです。
あの人勝手なんだけど、なんか憎めないキャラ。

そんなわけで、このお話はインフォスに天使が三人派遣されたという設定の下に書かれています。

ロジーの話もいつか書きたい。
エロそうだ。(なぜ)

しかし、落ちてない。
まとまってない。
……終わりどうしようかと思った(汗)

ちなみに、まだ恋愛になっていません。
ラミエルの好きは恋愛の好きではなさそうな予感。
でも、ちゅーしちゃたし。

恋の始まりが好きです。だって、楽しいから。
さて、この物語は続いていきます。

ちゃんとリュドラルにもラミエルにも恋してもらわないと♪
というわけで、見守ってもらえたらウレシイです。

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