第一話:私の席の前の人

前書き

私の席の前の人は……。

 私は小山ハル。自分で言うのもなんだけど、渦巻きメガネのあんまりパッとしない女の子です。今日、初めて男の子にデートに誘われました。その時のこと、今日は話したいと思います。

 いつものようにワイワイガヤガヤと、休憩時間が流れて行く。あと一限で、今日も終わる。

 キーンコーンカーンコーン。
 と、珍しくも無いどこの学校でも鳴るようなチャイムが十回鳴って、なんとなく、耳がおかしくなった頃、

「授業始めるぞ~」と担任の先生がプリントを配り始め、授業が始まった。

「はい、ハルちゃん、プリント」

 私の席の前の人がプリントを回す。

「あ、ありがとう」

 私は慌てて受け取り、すぐ後ろへとプリントを回した。一番最後の席まで回るにはあと何時間も掛かる。早く回さないと明日まで掛かってしまいそうである。
 そして、プリントを渡し終えた私は机に肘を付いて、ボーッと前を見ていた。

 前の席には、工藤有里君。

 彼は学校内のアイドルで、ずっと私に縁の無い存在の人だと思ってた。
 だって、私は分厚い渦巻きメガネの冴えない女の子。哀しいかなレンズが厚くて目が渦巻きにしか見えない。型や彼はハーフで、透き通るような済んだ青い目と、サラサラの金髪が印象的なナーイスガーイ!!

 私と並んだって、釣り合いが取れるはずもないし、彼はいつも沢山の人に囲まれてるから、住む世界が違うってわかってる。だから、別に意識してなかったんだ。
 たまに、後ろを向いて、わからないことを訊いて来る。会話はそれだけ。何の感情もない。私も別に何とも思ってないし。

「ハールちゃん」

「あら工藤君どうしたの? 今授業中だよ?」

 彼が振り向いて、声を掛けてくると私は決まってこう言ってた。彼は人懐っこいのか、私を名前で呼ぶ。まぁ、構わないけど……。

「ね、ハルちゃん映画、観に行かない?」

 手に映画のチケットらしき紙を二枚ピラピラさせて、右目を閉じて、ウインクをしながらにっこりと笑った。

「え……?」

 私は耳を疑った。

 『こら、工藤ー前向けー』と先生の声も聞こえる。

「映画、行こ! チケット二枚あるんだ」

「はぁ?」

 一瞬工藤君が何を言ってるのかわからなくて、私は大口を開けて聞き返した。

『こらー小山もしゃべんなーっ』

 先生の声がさっきより近くで聞こえる。

「え・い・が」

 工藤君の声が、ハッキリ聞き取れると、

「ちょ、私と――!?」

 と思わず声が大きくなり、そして、驚いた私は席を立ってしまった。

「うん♪」

「おのれら~」

「ハルちゃん危ない!」

 先生の声がすぐ近くに聞こえると、

 ドンッと工藤君は私の背を押した。

「あっ工藤君! ああっ!!」

 私はよろめいたが転げずに済み、何事かと工藤君を見ていた。
 すると、

 ゴッゴッ

 先生の拳が工藤君の頭を直撃……途端に大きなたんこぶが。彼は私を庇ってくれたようだった。なんて痛そうな……そんなことを思う時間もなく、

 『廊下に立っとれや!!』
 先生は怒りの鉄拳の後、すぐに、私と工藤君を教室からつまみ出した。

 ピシャッ

 勢いよくドアが閉まる。よく見ると、ドアにヒビが……。先生が壊したら先生は弁償するのだろうか……などと考えている場合じゃなかった。

「だ、大丈夫……?」

 目の前に拳大のたんこぶを二つこさえた学校のアイドルが居る。

「うん」

「私を庇って……コブが二つも……イイ男が台無し……」

 だぁあああああと、涙が滝のようにものすごい速さで流れた。途中小さな鯉が涙の滝を登ってたような気もする。滝でも登って龍になるつもりなのか、そうはさせないとばかりに一気に大量に涙を放出。

「大丈夫だよ、これくらい。それより……」

「え……」

 はぁ。涙を流し過ぎてちょっと脱水症状が出てきたかも…。などと右手を額に当ててため息をついて考えていたら、

「ね、ハルちゃん映画……行こ?」

 ガッと私の手を掴んでまたも、言うの。この人は。さっきのは聞き間違いじゃなかったようだけど……。

「本気で言ってんの!? こんなメガネっ娘と!?」

 手ぇ~はなして~……と心の中で叫んでた。工藤君の手は大きくて、力強くて振り解けなかった。その手でさっき庇ってくれたし、映画に誘ってくれたし、工藤君はやさしいと思いました。私の手を掴む手もなんだか温かいような?

「うん 
 彼のことは特別……意識はしてなかったのに……。

「何で!?」

「ハルちゃんが好きだから でしょ?」

 と彼がにっこりと微笑む。

「は?」

 私は一瞬何がなんだかわからなくて…聞き返してばかり。

 ………………

 …………

 ……

 頬が段々熱くなってくのがわかった。私はしばらく沈黙した後、

「冗談やめてよっ!!」

 私は一際大きな声でそう台詞を吐き、その場から走り去ろうとする。

「映画土曜だからー  あれーどこ行くのー?」

 にこにこと工藤君が私の後をつけようとする。

「帰る!!」

 ガラッと教室の廊下側の窓が開いて、

『コラァー!! まだ授業中やんけーっ!!』

 先生の野太い怒りの声も届かないまま、私はスタスタと玄関へ向かった。

「えーじゃ俺もー  

 工藤君も私の後について玄関へと降りる。

 私は工藤君と帰るなんてことは恥ずかしいので、工藤君を撒いてさっさと家に帰ってしまいました。

 そういや荷物……どうしよう。体操服、洗わないとダメだったような気がする……。

 ………………

 …………

 ……

 工藤君……ねぇ……。

 その日から、私は工藤君のことを少し意識し始めました。

 ………………

 …………

 ……

 どうしようかな……映画。

to be continued…

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後書き

 以上スペースカプセル☆一巻を文字に起こしたお話でした。もう古すぎて後書きとか、語ることなんもないや(汗)

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