第四話:手術と未知との遭遇

前書き

あ、UFOだ……。

『目は俺が治してあげるから大丈夫』

 そう言われて、ユーリと付き合い始めて一週間が経ちました。毎日、一緒に帰っています。でも、今日はそういうわけには行かなくて、

 放課後のこと、

「ハルちゃんごめん、今日ちょっと残らないといけないんだ(本当は、待ってて欲しいんだけどな~……なんて)」

 ユーリが何か求めるような顔をして、手を合わせて頭を軽く下げた。

 う~ん……何なんだろう? 先に帰った方がいいよね?

「そっか。んじゃ、先帰るね」

 私はにっこりと笑ってカバンを下げ、ユーリの前から去る。

(……やっぱりぃ?)

 何となく、ユーリの視線が私を生暖かく見つめている気がした。もしかして、泣いてる?

「ハルちゃんてドライだよな~……もう少し、頑張らないと駄目かな……?」

 ユーリが頬を掻きながらそんなことを言って、私が校門から出る姿を見つめてたなんて私は知らないまま、家路を黙々と歩いた。

「あ、今日のご飯何にしようかな? 買い物してかなきゃ」

 私はわけあって一人暮らしをしています。だから家事は全部自分でやらなきゃいけなくて。経済的には、まぁ、人並みよりは下かな……?

 贅沢しなければ暮らしていけます。バイトもしていないし。毎日が家事でいっぱいいっぱいでアルバイトどころじゃないのが本音。宿題もあるし……。

 はぁ……。
 今日の宿題……わかんないところだらけだったな……。

 そんなことを思いながら歩いていると、前方上空にオレンジ色に光る物体が空中を浮遊しているのをみつけた。

「あれ? なんだろ?」

 ふと、私が声を出すと、

「こっち……向かってくる?」

 光る物体は私の方を目掛け飛んできた。よく見ると円盤のような気がする。

 フィィイイイイン、と微かな風を切る音が聞こえて、私の目の前にゆっくりとスローモーション再生をしたように物体は着陸した。
 やはり、円盤である。

「……UFOだ……」

 まさか、今日の夜は焼きそばがいいな~って思ってたこと、目の前のUFO……つまりは宇宙人、は気付いているのかしら?
 ってゆうか、それ以前に目の前の物体は焼きそばじゃなかったっけ。

「……今日は焼きそばにしようっと」

 じーっとそのUFOが着陸したのを見て、私は何事も無かったかのように歩いて通り過ぎようとした。

「ハルちゃん」

 UFOを通り過ぎようとしたら、その円盤から声が聞こえた。
 二十代とも、三十代ともとれる今が旬な色気のある女性の声だった。私が男なら、こんな声で誘惑されたらほいほいついて行ってしまうんだろうな……。

「はい?」

 私は自分の名前を呼ばれたので当たり前のように返事をした。昔から名前を呼ばれたら返事をする。これは習慣なの。

「ハルちゃん目が悪いんだってね」

 円盤から声がするから、私は円盤に向かって返事を返す。

「はい。メガネが無いと全然見えないんです。こないだユーリ……あ、彼氏にメガネを壊されちゃって……新しいのを買ってくれたんですけど、結局渦巻きメガネしか合わなくて」

 はたから見たら変な光景かもしれないけど、彼女(?)の声は心地よくて、素直に応えてしまう自分がそこに居た。

「そう……じゃあ、不便よね?」
「まぁ、不便と言えば不便ですね。メガネが無いと男子トイレとか平気で行っちゃってよく痴女呼ばわりされますし、壁によく頭ぶつけたり、目的地に辿り着けなかったり、犬にスカートの中に潜り込まれたり……」

「そう……。最後のはエロ犬だからともかく、色々大変なのねぇ」
「でも、これが私だからしょうがないです」

 そう、悩んだって視力は戻らないんだから、しょうがないんだ。それならそれで、ありのまま受け入れようって、昔に決めたの。
 私はにっこりと円盤に向かって笑った。

「……ハルちゃんていい娘ねぇ~。私気に入っちゃった  あなたなら、息子を任せても大丈夫そうね 
「え? 息子さん?」

「そ♪ ね、ハルちゃん、ちょっとこっち見ててね」
「へ?」

 “こっち見ててね”と言われたので私は素直に従って円盤をじっと見た。
 すると……

「わっ! 眩しいっ!?」

 突然真っ白な光が私の目を襲う。私は慌てて腕で目を庇ったけど、その光に照らされたらなんだか気が遠くなって……。

「……一体……何なの……???」

 バタリ。

 私はそのまま、意識を無くしてしまった。
 気が付いたのはそれから大分たった後。

「んん……」

 身体が重い……。なんとなく……だるいような……。

 私は目蓋をゆっくりと開いた。

「……ここ……どこ?」

 気だるく、うつ伏せになった状態の身体をゆっくりと起こし辺りを見回す。そこは薄暗い空間で、周りはよく見えなかったけれど、身体を起こした位置から下方を見ると小さな灯りが二つ三つ見えたから、私の横たわっていたのが何かの台の上だということはわかった。
 体温を奪う冷たい金属の感触と、形は長方形。頭上を見上げれば暗くてはっきりとはしないが消灯されたままの大きなライトが四つ五つ。連想するのは手術台。

「……え……?」

 次第に目が薄暗い空間に慣れてくると、他にも色々と見えてくる。

「……何だろ……これ……」

 カチャ。

 手元に何やら金属のようなひんやりとした感覚が触れる。
 小さな棒のような……ペン……かな? 先はパチンコ玉みたいな球体がくっついていて尖ってはいない。
 私はそのペンのような物を手に取る。

 すると……、

「あらあら、起きちゃったのね。それ、メスなのよ。下手に触ると怪我するわ~。ダメよ~。まだ目開けちゃ」

 さっきの声……。

「え?」

 パシャッ

 先程の光がまた私の目蓋を刺激する。

「っ!?」

 そして……私はまた気を失うのです……。

 パタッとね。

 一体何だっていうの……?

『大丈夫。手術は成功したから。次に目を開けたらびっくりするわよ~。十五キロ先まで見えちゃうから♪ オプションで透視能力もつけておいたわ♪span class=”heart”> 』

 耳だけが機能してた。あの女性(?)の楽しそうに言う声が聞こえる……。

 十五キロ先まで見える……?
 透視能力……?

 そんなの……要らないよ~……。

「……ちゃん……ハルちゃん!」

 それからどれくらい経ったのかわからないけど……聞き慣れた声が私の耳に少しずつ沁みてきた。

「んん……」
「大丈夫? しっかりして」

 この声……ユーリだ……。

「……ユーリ……?」

 静かに目蓋を開ける。

「……大丈夫?」

 目の前に夕焼けに照らされた青い瞳の金髪の少年が私の顔を覗き込んでいるのがわかる。

「……ユーリ……私……どうして……」
「ハルちゃん道で倒れてたんだよ。俺、胸騒ぎがしてすぐ居残り切り上げて帰って来たんだ。……良かった気が付いて……もう少しでトラックに轢かれる所だったんだよ……その前に乗用車に轢かれてたみたいだけど」

「……そう……なんだ……」

 さっきのは夢だったのかな……? にしてはやけにリアルに憶えてる……。

「……怪我はない? さっき首が後ろに折れてたから戻しといた」

 心配そうに私を覗くユーリに、

「……うん。何とも……ないよ。ありがと」

 と、私は自分の身体を見る。左腕が変な方向に曲がってるけど、ま、これくらい大丈夫でしょう。右足の膝の骨がちょっと出てるけど、これも何てことないか。

「……あ」

 ふと私の前に粉々になったメガネを見つける。

「メガネ……また壊れちゃった……ごめん、ユーリがせっかくくれたのに……」
「そんなのいいよ。また買ってあげるから」

「でも高いのに」

 そう、特殊なレンズだから十万はするんだよ……。あっさり買ってあげるなんて……ユーリってお金持ちなのかな……?

「いいって」

 にっこりと私に笑顔を向ける。なんて、優しく笑うんだろう……。

「……あれ?」

 あれ? ユーリの顔……ハッキリ見えてる……。

「ん?何?」

「……今私メガネしてないよ……ね?」
「うん」

「…………あ」
「ん?」

「……顔ダニ発見!」

 ピッ! とユーリの頬を指差す。

「え?」
「ユーリ、毛穴油ベトベト。顔ダニいっぱい歩いてるよ~」

「あ……そう? 油取り紙あったっけかな……」

 ユーリはガサゴソと自分のカバンを探る。
 ユーリが鏡を取り出し、油取り紙を自分の顔に当てようとしたとき、鏡が私の顔を捉えた。

「……う……顔ダニいるし……」
「どしたのハルちゃん?」

「顔ダニって……どんなに綺麗にしててもいるんだね~……」
「顔ダニって?」

「……目、見えすぎだよぅ……」
「え……」

「だって……お隣の鈴木のおじさん十三キロ先のラブホで男の人に会ってるし、教頭先生出会い系サイトにアクセスしてるし、私の家に誰か入ってるし……それにユーリだって……」

「お、俺?」

 ……顔が熱くなってきちゃった……。きっと、今、顔、赤いんだろうな……。

「ハルちゃん、顔、赤いよ?」

 ユーリは私に手を差し伸べる。

「やっ! ユーリこっち寄らないで!!」

 その途端私はユーリの手を跳ね除けた。
 ……私が何を見たかは聞かないで下さい……。

「……見え過ぎってー……ことは……目、治ったってこと?」
「うん。多分、何でも見えるよ。ユーリの……」

 じー……と目線がユーリの顔から顎、首、胸、下へと下がっていく。

「俺の……?」
「な、何でも無い!」

 まさか、ユーリがモモヒキ穿いてるなんて、そんな恥ずかしいこと口に出来ないよ。きっと、恥ずかしがるの目に見えてわかるもん。
 冷え性なのかな?

「目、見えるようになって良かったね」
「うん、本当。なんで突然見えるようになったのか不思議だけど~」

「ま。それはともかく、良かったじゃん。……立てる?」
「うん」

 私はユーリに支えられて立ち上がり、その後家に送って貰いました。

「送ってくれてありがとう」

 私はめいっぱいの笑顔でお礼を述べた。

「ううん。また、明日」

 ユーリも笑顔で応える。

「うん」
「……あ、ハルちゃん」

「ん?」
「目、見え過ぎだって言ってたよな?」

「うん。なんか……クラクラするよ」
「そっか……」

 ユーリは右手を顎に当てて、何か考える素振りをした。

「どしたの?」
「あ、いや何でもないよ。……明日には普通に見えるようになってるから、安心してお休み」
「え? あ、うん。おやすみなさい」

 その後、ユーリは手を振って昨日とは別の道へ消えて行った。私の家の前には前に真っ直ぐ進む道路、右に向かう道路、左に向かう道路の三通りの道がある。それぞれの道は別の通りに続いていて、繋がってはいない。
 でもユーリは毎日違う道を歩いて消えていく。家に帰るんだろうけど……でも、いつも帰る方向がバラバラなのはどうして?

「……晩ご飯……買いそびれちゃったなぁ~……カップ焼きそば買ってあったっけ……それでいーや……」

 カチャと、玄関の扉を開ける。

 私はユーリを見送って、玄関へと入った。

「はぁ~……さっきの夢だったのかな~? ……ふぅ……」

 靴を脱いで、揃え、家に上がり、居間に入る。

「おかえり。ハルちゃん」
「ただいまーって……え?」

 そういや、誰か家に入ってたんだっけ……。
 そんなことを思いながら居間に入って、目の前に居たのは……。

 未知との遭遇……。

to be continued…

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後書き

 透視能力あったら、色々見えて便利な分、不便もあるんでしょうね。

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