前書き
マミーは可愛い。
そんなわけで、今ユーリの家に遊びに来てるんだけど……。とてつもなく大きな家……ってゆうか……これ……お城だし……。
私が今居るのはユーリの星のユーリのお城……。中世ヨーロッパに出てきたような……シンデレラとか、白雪姫とかに出てきたようなお城の中。
でも、ユーリの部屋は意外に今時っぽい普通の作りで……内心ホッとした。テーブルとコンポとベッドと、本棚、それにクローゼットがある。
生活が全く違うとなると、会話が噛み合わなくて困るもんね。
私はさっきからユーリの部屋で一人、ユーリが来るのを待っている。彼がちょっと待っててと言ってジュースとお菓子を置いていってくれたので、
ポリリ。
ポテチを口に含み、噛み砕く。カル○ーのうすしお味、これ好きなんだ。でもパッケージ裏に書いてある宇宙工場って……どこ?
「……ユーリの部屋かぁ……」
キョロキョロと見回して、ジュースを一口飲んで、
「……あ…」
ベッドの下に雑誌を数冊見つける。成人雑誌……うーん……。ユーリはまだ17歳なのになぁ。でもこの本、表紙がクラゲ……。この星の本なのかな? あ、地球のもあるや。これは水着か……。
「……男の子だもんね……」
私は特に気にも留めず、別の家具に目を移す。
「あ……」
コンポの上に隠し撮りをしたであろう私の写真を見つける。
「ユーリってば……言ってくれればいくらでもポーズ取るのに……」
写真の中の私はあさっての方向を向いて口をぽかんと開け、白目を向いている。
なんて……決定的瞬間かしら。
コンコン。
部屋のドアがノックされて、
「はい」
「お待たせ」
「あ、ユーリこの写真……」
「あ……バレちゃった? ……ごめん。あまりに可愛くて勝手に取っちゃったんだ」
「あ、あははは……」
「この白目素敵だね!!」
ユーリが頬を赤らめウインクする。
「ありがと―― 」
そして私も笑顔で返す。
なんだかバカまっしぐらであるが、私達は趣味が相当合う??? ようです。
「ね、ハルちゃん。これ、着てみてくれないかな?」
ユーリを見るとヒラヒラと手に服らしきものを持っていた。
「へ?」
「俺さ、コスプレ好きなんだ」
「これ……何の衣装?」
「ん~……メイドさん♪」
「可愛いね~。いいよ。これ、着ればいいのね?」
ユーリから衣装を受け取る。
コスプレ……。
これが、ユーリの趣味なの? そう思った。
でもね、ユーリの言うこと出来るだけ、聞いてあげたい。そういう気持ちが私は強くて。始めは少し抵抗あったけど……着てみたんだ。
「ど、どうかな……なんか……ヒラヒラしてて……こんなの初めてで……」
ユーリに部屋から出てもらって、私はユーリから渡された衣装に袖を通した。
「ハルちゃん!! 超可愛い!! 似合うよ!!」
目をキラキラと輝かせて私を上から下から何度も見つめる。
「そ、そんなに見られると恥ずかしいんだけどな……」
「……ハルちゃんかわいい……♪」
「わっ!?」
ぎゅうううう。
突然ユーリに抱きしめられる。
ああ……男の子ってこんなに大きいんだ……腕……力強いし…抵抗しても絶対逃げられないなぁ……ううん……抵抗なんて別にしたくない…むしろ…心地いい。
私は黙ってユーリに抱きしめられていた。
そして、ほのかにユーリから甘い香りがしてくる。
……ユーリいい匂いがする……。
そう思ったら……。
「……ユーリ……苦しいよ……」
「え? あ、ごめん。つい可愛くて……」
パッ。とユーリは私を放す。
「……え、えと……」
……なんか…動悸が激しくなってきたかも……。
なんて思いながら私は右手で髪を掬って耳に掛けた。
あれかな……やっぱ…男の子の部屋だし……そうなのかな……そうくるのかな…?
「……えっと……これから何するの?」
意を決したように私はユーリに話しかける。
「え?」
「……だって……こんなの着て……」
覚悟は出来てるよ? って……何の!?
「オセロしない?」
「はぁ?」
「駄目? じゃー……トランプ」
「ううん。オセロでいいけど……|×××《ピーー》しないの?」
「え!?」
ボコッ
いきなりユーリの右平手が私目掛けて飛んでくる。
「ブフッ」
私は一発でノックダウンし、その場に倒れる。
3…2…1……。
立てない……立てたのはそれから十秒後……完全にノックアウトである。
「……う……私の負け……?」
「もう、ハルちゃんたら♪ 女の子の口からそんなこと言っちゃいけません!」
顔を耳まで真っ赤にしてユーリが言った。
「…………あ、そぅ……」
ユーリってやっぱりよくわからない……。
それから三時間程ユーリとオセロをして、私は全勝し、さっきの負けを忘れることにした。
帰りはユーリの宇宙船で家まで送ってもらう。
「今度はバニーガールとか巫女さんとか用意しとくね」
「あ……はぁ……」
この人は純粋にコスプレだけが好きなのね……。と私は悟った。
……付き合ってあげよう。
この人のワガママは何だか心地いい。
もう、その頃にはそう決めてたの。
◇
「じゃ、また明日」
「うん。今日は楽しかったよ。送ってくれてありがと」
ユーリに笑顔を向けて告げた。まぁ、宇宙からだから送ってもらわないと帰れないんだけども。いくらギャグで作った話とはいえ、宇宙空間に人間が生身で漂ってそのまま地球になんて帰れるわきゃない。そこまで超人的パワーが私にあるはずもなく……。
「ハルちゃん」
「ん?」
玄関に入ろうとした私はユーリに声を掛けられ、振り返る。
「大好きだよ」
「っ!」
その台詞を夕焼けを背に最高の笑顔で言ってから、ユーリは手を振って帰って行った。
「……ぁ……」
私はしばらく固まってユーリが帰ってく様子を見ていた。
「……ユーリ……私は……」
まだ……恋とまではいかないけれど……。
……好きになれるような気がする。
心臓がさっきより早く脈打ってる気がするから……。
すごい……早さ……。信じられない……。
ドクドクドクドク……ドドドドドドド。
すごい、耳で聞こえるくらい。なんか道路工事を近くでやってる振動みたいな……。
「……って……え……!?」
「あら、ハルちゃんおかえり」
私の家の庭にマミーがねじり鉢巻をして、アスファルトを真っ直ぐに伸ばす転圧機を操っていた。
「お母様!! ど、どうしたんですか!?」
そこ私の家の庭なんですけど……?
「あのね~……私振られちゃったの~……」
マミーが泣きながら私に寄って来る。
「え……あ、あの例の少年ですか?」
「そう……私もう……どうしたらいいのか……」
さめざめとマミーが泣いている。
「お母様でもそんなに落ち込むことがあるんですね」
スッと私はポケットからハンカチを取り出してマミーに渡した。
「そぉよ~。私だって落ち込むわよ~。だってあの子、好きな子が居るから駄目って言うんですもの! 絶対喜ばせる自信あるのに……酷いわよ……純な宇宙人騙すなんて!!」
みるみる内にハンカチがマミーの涙で濡れていく。
「手術の約束だったんですよね?」
「そうよ~……なのに今になって駄目なんてそんなの酷すぎると思わないー? せっかくおいしくいただこうと思ってたのにねぇ? 酷いわよね~? そう思わない?」
マミーの問いに対して、
「思います」
私は即答した。
「でしょでしょ~!!」
マミーの涙が滝のように溢れてくる。このままだと、辺りは水浸しになってしまう。
「……お母様そんなに泣かないで下さいよ~。私まで泣きたくなっちゃう……」
「うう……涙で池が出来そうだからハルちゃん家の庭に池を作ろうと思って工事してたのよ……」
「池作られると洗濯物が干せなくなるので止めて下さい」
私はマミーのねじり鉢巻をぎゅーっと縛り上げた。
「うう……ハルちゃん……」
頭(?)がひょうたんのようで可笑しい。
「そんなにしたかったなら……無理にでもすればいいじゃないですか?」
「え……?」
「だって……約束だったわけでしょ? ……約束は果たすべきですよ。男の人で約束守れない人なんて大嫌い」
「……あ……そ、そうよね!! そうだわよね!! もう歳なのかしら……私なんか弱気になってたみたいね。ありがとハルちゃん!! 私行ってくるわ♪」
ぱあっとマミーの顔が明るくなり、突然転圧機を飲み込んだと思ったら、
「やっぱりハルちゃんはいい子だわ! 大好きよ 」
ちゅう。
とマミーは私の頬に軽くキスをして、フヨフヨと風に乗って飛んで行った。
「……お母様ったら……」
少女みたいなクラゲだな……とマミーを見送って私は玄関に向かった。
◇
「ふぅ…」
私は玄関に入って、やっと一人になる。
私も、マミーのこと好きです。明るくて、可愛くて、何だかいつも元気をくれる。素敵な女性(?)だと思います。今頃、楽しくやってるんでしょう……。
何かは……あえて聞かなかったけど。
to be continued…
後書き
約束は守るもの、いやわかっちゃいるけど時々破っちゃうことだってありますよ。人間だもの。