前書き
目が、目が……。
そして、そんなある日のこと。
「ハルちゃん一つ約束してくれるかな?」
ユーリとデートしている時に言われた言葉。
「約束?」
「うん」
「いいよ」
私は何の約束かを聞く前に即答してしまった。だってこの時私はメイド服を着て、ユーリとご主人様ごっこをしていたんだもの。ご主人様の命令には逆らえません。
ってゆうか……えと、猥褻なことはしてないですよ? だって、ユーリ奥手だし?
「目は治ったけど、学校ではメガネをしてて欲しいんだ」
彼のセリフが続き、私も聞き返す。
「メガネを?」
「もし破ったら……」
「破ったら……?」
真剣な顔をして、ポケットから目薬を出して、
「俺達別れなきゃいけない……カモ」
って泣きながら言うの。(え? 騙されてる?)
そんなユーリに私は、
「ユーリ……泣かないで……。大丈夫! 約束するから!!」
と、彼に抱きついた。……私彼に恋してる……?
それから数日後、学校に転入生がやって来たの。
キーンコーンカーンコーンコーンカーンキーンコーンキンコンカンコンキコカコキコカコキコカコゴーンゴーンゴーン。
相変わらず訳のわからない始業チャイムが鳴って、教室では朝のホームルームが始まった。
ザワザワユザワザワ、教室内がいつものようにざわめいている。私も前の席のユーリと話し込んでいたの。
「はーい、皆黙れよ、転入生を紹介する」
先生がそんなことを言ったけれど、ザワザワザワザワと、教室の喧騒に掻き消されてしまった。
「でさーハルちゃん」
「うん」
「……が……」
会話を楽しむ私とユーリの近くで、
「ねぇ、高島。工藤君て何で小山なんかと付き合ってんの?」
「んー?」
クラスメイトの中谷さんと高島君が私達のことを噂していた。
「工藤変わってかんなーって……中谷よー……何でそんなこと聞くんだ?」
「えーそう? 変わってないわよ。……だって私の方がかわいいもの」
高島君が頬杖をつきながら訊ねると、隣の中谷さんが真顔でそう答えた。
「……お前ね」
高島君は呆れ顔で中谷さんを見る。
「工藤有里といえばこの学校のアイドル!! そう、言わば王子様!! 王子様なのよ!! 私なんて彼と同じ教室で同じ空気が吸えるだけで鼻血出そーなのにっ!!」
呆れ顔の高島君を余所に、中谷さんは盗撮したユーリのフンドシ写真に口付けをする。
「……鼻血……もう出てるぞー」
そう、鼻血を垂らしながら。
「小山ハル!! あんなメガネブスと付き合ってるだなんて許せないわ!! キィ――!! くやしい――――!!!!」
ブシュ――っと鼻血が大放出し、涙も大量に流す。そして不意に中谷さんの眉毛が繋がった。ごるごさーてぃーんとかいう人に少し似てるような、そうでないような。
「……まぁ、あれじゃあお前の気持ちもわからなくもないけどさー……髪型変えてもアレじゃなぁ……(くどーホント変わってるよ)」
高島君は私の方をちらりと見て、尚も呆れたように呟いた。
最近髪を二つ結びから下ろし、髪型を変えた私。
……アレ呼ばわりされてしまいました。
「……誰も聞いちゃいねぇ……入んな」
「あ、ハイ」
ふいに先生が誰かを教室へと招き入れた。
「えっと……日下部哲です」
その人が名前を名乗る。
見たとこ新しい先生でもなさそうだし、どうやら転入生みたい。
その転入生は、首と腰の間位までの長い黒髪の男の子で、何だか物静かな印象を受けた。
「いい男じゃん、髪長ーい、背ぇ高ーい。工藤君が無理なら彼にしよっかな~」
中谷さんが鼻にティッシュを詰めながら転入生を吟味している。
“昔この辺に住んでたことがあって、親の都合でまた戻って来ました、宜しく”
日下部君の自己紹介は続いていたけれど、
「でさ、ハルちゃん」
ユーリが相も変わらず後ろを向いて来るものだから、よく聞き取れなかった。
「ほら、ユーリ転入生だって」
私はユーリの顔を前に向かせる。
けれど、
「ハルちゃん見てる方がイー♪」
「もう――」
ユーリはまた後ろに向き直ってしまった。
“じゃあ、席は――……”
先生の声が聞こえた気がした。と、同時に、
ヒュン、ヒュン、と何かが風を切った音がした。
その音と共に、
「ハルちゃん!!」
ユーリの声も聞こえて、彼が私を庇うように腕を広げて立ちはだかった。
プス、プス。と、気付けば彼の腕と額をチョークが貫通している。
こ、これは、もしや、先生の必殺チョーク飛ばし!?
彼氏いない歴●●年の恨みつらみが生徒カップルを妬んで発射する。その威力は五十メートル先の林檎をも木っ端微塵にしてしまうほど。
「大丈夫――?」
「大丈夫――♪」
私が訊ねるとユーリは笑顔で答えた。
血……吹き出てるけど……。
「くどーにこやま!ろーかに立ってろ!!」
「あのー先生?」
日下部君をそのままに、先生は口から炎を吐いてそう告げた。
「喜んで♪ 待ってました♪」
「ちょ、ユーリ!?」
ユーリは先生の言葉を聞きつけると、ニヤリと口角を上げて私の手を取り、教室から連れ出そうとする。
そして、二人で日下部君の前を通り過ぎようとすると……。
「ハル……ちゃん? 小山ハルちゃんだろ?」
不意に日下部君に声を掛けられた。
「そうですけど――」
「やっぱり!」
私が答えると、日下部君は私の肩を掴んだ。
「えっ!?」
私の身体が日下部君の胸の中へと吸い込まれていく。
「ハルちゃん! 会いたかった! 同じ学校だったんだね!」
耳元で日下部君の声が聞こえる。
でも、次の瞬間風が私の前を横切る。
「タコ!」
あ、ユーリの声。
日下部君を見ると顔にユーリの左足がめり込んでいた。
「ハルちゃんに触んな!! 俺んだ!」
ユーリが孤軍奮闘し、日下部君に喧嘩を売ろうとしている。
「俺んだじゃねー!!イチャつくなっつってんだろがーっ!!」
ああ、先生の怒号が……。
to be continued…
後書き
スペースカプセル☆二巻より、後編……まだ書いてません(汗)。気が向いたら続き書きたいと思います。