第七話:約束のメガネ(前編)

前書き

目が、目が……。

 ユーリと付き合い始めて半年以上経ちました。季節は相も変わらず初夏です。私達の住む世界では時が気ままに動くようで、書き始めて四年が経つというのに歳を取りません。羨ましいでしょ? そうでしょう♪

 そして、そんなある日のこと。

「ハルちゃん一つ約束してくれるかな?」

 ユーリとデートしている時に言われた言葉。

「約束?」
「うん」

「いいよ」

 私は何の約束かを聞く前に即答してしまった。だってこの時私はメイド服を着て、ユーリとご主人様ごっこをしていたんだもの。ご主人様の命令には逆らえません。

 ってゆうか……えと、猥褻なことはしてないですよ? だって、ユーリ奥手だし?

「目は治ったけど、学校ではメガネをしてて欲しいんだ」

 彼のセリフが続き、私も聞き返す。

「メガネを?」
「もし破ったら……」

「破ったら……?」

 真剣な顔をして、ポケットから目薬を出して、

「俺達別れなきゃいけない……カモ」

 って泣きながら言うの。(え? 騙されてる?)

 そんなユーリに私は、

「ユーリ……泣かないで……。大丈夫! 約束するから!!」

 と、彼に抱きついた。……私彼に恋してる……?

 それから数日後、学校に転入生がやって来たの。

 キーンコーンカーンコーンコーンカーンキーンコーンキンコンカンコンキコカコキコカコキコカコゴーンゴーンゴーン。

 相変わらず訳のわからない始業チャイムが鳴って、教室では朝のホームルームが始まった。
 ザワザワユザワザワ、教室内がいつものようにざわめいている。私も前の席のユーリと話し込んでいたの。

「はーい、皆黙れよ、転入生を紹介する」

 先生がそんなことを言ったけれど、ザワザワザワザワと、教室の喧騒に掻き消されてしまった。

「でさーハルちゃん」
「うん」

「……が……」

 会話を楽しむ私とユーリの近くで、

「ねぇ、高島。工藤君て何で小山なんかと付き合ってんの?」
「んー?」

 クラスメイトの中谷さんと高島君が私達のことを噂していた。

「工藤変わってかんなーって……中谷よー……何でそんなこと聞くんだ?」
「えーそう? 変わってないわよ。……だって私の方がかわいいもの」

 高島君が頬杖をつきながら訊ねると、隣の中谷さんが真顔でそう答えた。

「……お前ね」

 高島君は呆れ顔で中谷さんを見る。

「工藤有里といえばこの学校のアイドル!! そう、言わば王子様!! 王子様なのよ!! 私なんて彼と同じ教室で同じ空気が吸えるだけで鼻血出そーなのにっ!!」

 呆れ顔の高島君を余所に、中谷さんは盗撮したユーリのフンドシ写真に口付けをする。

「……鼻血……もう出てるぞー」

 そう、鼻血を垂らしながら。

「小山ハル!! あんなメガネブスと付き合ってるだなんて許せないわ!! キィ――!! くやしい――――!!!!」

 ブシュ――っと鼻血が大放出し、涙も大量に流す。そして不意に中谷さんの眉毛が繋がった。ごるごさーてぃーんとかいう人に少し似てるような、そうでないような。

「……まぁ、あれじゃあお前の気持ちもわからなくもないけどさー……髪型変えてもアレじゃなぁ……(くどーホント変わってるよ)」

 高島君は私の方をちらりと見て、尚も呆れたように呟いた。

 最近髪を二つ結びから下ろし、髪型を変えた私。

 ……アレ呼ばわりされてしまいました。

「……誰も聞いちゃいねぇ……入んな」
「あ、ハイ」

 ふいに先生が誰かを教室へと招き入れた。

「えっと……日下部哲です」

 その人が名前を名乗る。
 見たとこ新しい先生でもなさそうだし、どうやら転入生みたい。
 その転入生は、首と腰の間位までの長い黒髪の男の子で、何だか物静かな印象を受けた。

「いい男じゃん、髪長ーい、背ぇ高ーい。工藤君が無理なら彼にしよっかな~」

 中谷さんが鼻にティッシュを詰めながら転入生を吟味している。

 “昔この辺に住んでたことがあって、親の都合でまた戻って来ました、宜しく”

 日下部君の自己紹介は続いていたけれど、

「でさ、ハルちゃん」

 ユーリが相も変わらず後ろを向いて来るものだから、よく聞き取れなかった。

「ほら、ユーリ転入生だって」

 私はユーリの顔を前に向かせる。

 けれど、

「ハルちゃん見てる方がイー♪」
「もう――」

 ユーリはまた後ろに向き直ってしまった。

 “じゃあ、席は――……”

 先生の声が聞こえた気がした。と、同時に、
 ヒュン、ヒュン、と何かが風を切った音がした。

 その音と共に、

「ハルちゃん!!」

 ユーリの声も聞こえて、彼が私を庇うように腕を広げて立ちはだかった。

 プス、プス。と、気付けば彼の腕と額をチョークが貫通している。

 こ、これは、もしや、先生の必殺チョーク飛ばし!?

 彼氏いない歴●●年の恨みつらみが生徒カップルを妬んで発射する。その威力は五十メートル先の林檎をも木っ端微塵にしてしまうほど。

「大丈夫――?」
「大丈夫――♪」

 私が訊ねるとユーリは笑顔で答えた。

 血……吹き出てるけど……。

「くどーにこやま!ろーかに立ってろ!!」

「あのー先生?」

 日下部君をそのままに、先生は口から炎を吐いてそう告げた。

「喜んで♪ 待ってました♪」
「ちょ、ユーリ!?」

 ユーリは先生の言葉を聞きつけると、ニヤリと口角を上げて私の手を取り、教室から連れ出そうとする。
 そして、二人で日下部君の前を通り過ぎようとすると……。

「ハル……ちゃん? 小山ハルちゃんだろ?」

 不意に日下部君に声を掛けられた。

「そうですけど――」
「やっぱり!」

 私が答えると、日下部君は私の肩を掴んだ。

「えっ!?」

 私の身体が日下部君の胸の中へと吸い込まれていく。

「ハルちゃん! 会いたかった! 同じ学校だったんだね!」

 耳元で日下部君の声が聞こえる。
 でも、次の瞬間風が私の前を横切る。

「タコ!」

 あ、ユーリの声。
 日下部君を見ると顔にユーリの左足がめり込んでいた。

「ハルちゃんに触んな!! 俺んだ!」

 ユーリが孤軍奮闘し、日下部君に喧嘩を売ろうとしている。

「俺んだじゃねー!!イチャつくなっつってんだろがーっ!!」

 ああ、先生の怒号が……。

to be continued…

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後書き

 スペースカプセル☆二巻より、後編……まだ書いてません(汗)。気が向いたら続き書きたいと思います。

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