台所から食堂までは距離は近いが、レンガの壁で半分は仕切られているから台所の様子は食堂からは見えない。 「……くっ……うぅ……」 ガチャガチャ、と。 ウィニエルの持ってきた食器が少し乱暴に流しに置かれる。 カチャ、と。 対照的に俺は静かにウィニエルの置いた食器の上に持ってきた皿を置く。 「……フェインっ!!」 身体を支えるように流しの淵を掴んでウィニエルが小声だが語気を強めて、俺を涙目で睨んでくる。 「ウィニエル、君にはおしおきが必要だからな」 俺は至極優しい眼差しで、微笑んで見せた。 「っ……だ、だからって……こんなっ……ぁ……っ……あい……んだって……ふぃ……居る……に……」 アイリーンだって、フィンだって居るのに、と言っているんだろうが……もう限界なのか、あとは“はぁはぁ”と苦しそうに息をするのがやっとの様子だった。 『だからね、その時に僕が……』 『えー、そうなの?』 食堂から残った二人の楽しそうな会話が聞こえる。 対照的だよな。 こちらの会話は聞かれたらまずい。 「……イキそうなのか?」 「フェイン……ひどいひと……ぁっ……」 俺はウィニエルの肩の震えが大きくなっているのを見て、後ろから抱きすくめてやる。 「ぅぅぅぅっ……!!」 ウィニエルは音が大きく出ないよう、自分で口元を押さえて何とか声を抑えていた。 「……はぁっ……はぁっ……んぁ……」 ふるふる、と。 涙に濡れた瞳と、流しに掴まっている片手の甲が小刻みに揺れる。 「……イッたな?」 「……っ……はっ……はぁっ……」 俺が耳元で囁くように告げると、ウィニエルは息も絶え絶えに首を縦に下ろした。 「……本当にいったかどうか……確かめないとな」 「ぇ……っ……な、何言って……ぁぅ……」 ウィニエルのシャツのボタンを手が入る一つ分取り外して、そこに俺の手を忍ばせ、ブラジャーの中に進入し、先に少し触れてみる。 「んん……ぁ……」 ウィニエルの胸の先端が勃起して、硬くなっているのを確認すると、悪戯に人指し指で二、三度、弾いてみる。 それに反応するように、ウィニエルが甘い声を上げた。随分と硬くなっている。 ここから見える彼女のうなじにも、汗の滴が見える。 そこから女の甘い匂いが香って、俺の意識を飛ばしそうになるものの、鼻息を少し荒くしただけで、なんとか耐える。 二、三度、小さく深呼吸をする。 このままここでなんて、流石の俺でも出来そうにない。 「…………」 俺は手を彼女の胸元から抜いて、静かに魔法を解除した。 「……はぁ……ぁ、と、止まった……よ、良かった……ふぅ……」 俺が魔法を解除すると、ウィニエルの身体の震えは止まり、安堵したように深い溜息を吐いた。 「……もぅ、フェイン……酷いです……」 ウィニエルが俺の方へ向き直って、上目遣いにこちらを見ると、頬を膨らます。 その顔と言ったら、 何と言うか、 無垢な天使を穢したような罪悪感を憶えるほどに可愛かった。 俺には嗜虐性などないし、そこまでのことをしたつもりはないが、何故か彼女が困ることをした後のこの顔を見ると、可愛いと感じてしまう。 そして、愛おしくてたまらない。 本来なら謝らなければいけないのかもしれないが、 ウィニエルは多分、受け入れてくれる。 俺の無茶を全て、許してくれるだろうと自惚れている。 「……もう、しない。あとで、取り除いてやるから、今は我慢してくれ」 彼女の頭をそっと撫でて、宥めるように伝える。 「……絶対ですよ? デザート、持って行かないと……早く戻らないと変に思われちゃう……」 ウィニエルはデザートのことを思い出して、先ほど作っておいたプリンを冷やした容器から取り出して、トレイに四つ並べると、食堂へと戻っていった。 『はい、お待たせー。プリン、作っちゃいました』 『おー! すごーい!!』 『おいしそう!!』 ウィニエルが消えた台所に残された俺の耳に食堂からの声が届く。 「……はぁ……結構きついものだな……」 俺はウィニエルの姿に興奮してしまったため、すぐに戻ることが出来ず、このまま突っ立ってるのも滑稽だから、皿を洗うことにした。 「……これは、俺への罰か?」 ウィニエルにおしおきを与えるつもりが、俺への苦行になってるような気がしないでもない。 それでも。 もう少し、彼女に何かしてやりたい。 そんな変な征服心みたいなものが俺の中に疼いていた。 「……フェイン?」 「わっ!?」 「え?」 俺が考え事をしながら皿を洗っていると、ウィニエルがいつの間にか居て、追加の皿を持って来て流しに置くと、こちらを覗いていた。 驚いた俺は、つい、声を上げてしまう。 「あ、いや、なんでもない、何だ?」 「……フェインはプリン、食べないんですか?」 「あ、いや、いただこう」 俺の返答に不思議そうな顔で、ウィニエルが続ける。 「それじゃ、向こうに来てください。……全部食べ終わってませんし、お皿なら私が……」 「……俺にも事情ってものが……」 「え?」 俺が視線を下半身に下げると、ウィニエルもそれを追って、何かに気付く。 「ぁ……す、すみません……、それじゃ治まったら……む、向こうで、ま、待ってますね……」 瞬時に耳まで赤く染めて、そそくさと行ってしまった。 治まったらって……。 「ふっ……」 つい、気まずいが可笑しくて噴き出してしまう。 ウィニエルは時々面白い。 俺のなんて、何度も見ているだろうに。 ズボンの上から膨れたそれを見て恥ずかしくなって行ってしまうのだから、反応がいちいち新鮮だ。 「……次は多分、我慢できそうにないな……」 このままだと身体にも悪そうだ。 俺は流しにある皿を全て洗い終えて、食堂へと戻った。 「……プリンがない……」 俺が席に着くと、テーブルにあるはずのプリンがなかった。 俺の台詞にアイリーンが素早く反応し振り向く。 「あ、ごめん、フェイン、あんまり美味しいからフィンと一緒に食べちゃったよ」 だそうだ。 「……そうか……」 少しばかりがっかりしつつも、ないなら仕方ない。 「ウィニエルまだ食べてるからもらえば?」 アイリーンが白い歯を出して作為的に笑う。 「いや……」 「あ、フェイン食べますか? いいですよ。半分こしましょう」 俺がちらりとウィニエルに視線を投げると、彼女は何の疑いもない顔で、柔和に微笑んだ。 「ウィニエル食べさせてあげればいいじゃん」 「えっ? あ、いえ……それは……」 「アイリーン、君は……!」 ウィニエルのプリンを掬ったスプーンを持つ手が止まる。 アイリーンの言葉に俺とウィニエルは互いに目を合わせると、彼女は頬を朱に染め、俺の頬は熱くなった。 こういうのはかえって照れくさい。 「……食べますか?」 「…………」 ウィニエルは|嗾《けしか》けられて意を決したのか、俺に向かってプリンを載せたスプーンを手前に差し出した。 ここで時が瞬刻、止まったかと思った。 時間にすれば、ほんの、五秒足らず。 俺は無言で、目の前のスプーンを見ていた。 が、直ぐに、 「あーん!」 「あっ」 ぱくっ、と、ウィニエルの腕を奪うようにして、彼女の隣に座っていたフィンが身を乗り出し、スプーンからプリンを奪取した。 「あ、フィン、邪魔しちゃダメだよ!」 「だって、フェインおじさん食べたくないみたいだから!」 アイリーンの制止にフィンが剥れながら抗議する。 「そのフェインおじさんのプリン食べたの私達なんだから、しょうがないっしょ?」 「でもー!!」 フィンはウィニエルと俺が仲良くしている姿を見るのがどうにもまだ受け入れられないようで、時折こんな風に焼き餅を焼く。 ウィニエルが大好きなんだな。 取られるかもしれないってまだ、思っているのか。 フィンの素直な反応が、俺は羨ましく思う。 俺の嫉妬は歪な形で露呈するから、こんな風に素直に出せたら、ウィニエルも困ることもないのにな。 「あー、お腹いっぱーい! ごちそうさまっ! 食器私洗うね~、フィンも手伝ってよ」 「う~……わかったよ~」 アイリーンが立ち上がると、フィンもしぶしぶ立ち上がって、アイリーンに付いていこうとする。 「あ、食器ならさっきフェインが洗ってくれたから、残りは私が」 ウィニエルがプリンを持ったまま、アイリーンに告げる。 「え? あ、そうなの? ラッキー! ありがと、フェイン! それじゃあ、私とフィンお風呂入るわ。フィン、お風呂入ろ♪」 「うん!!」 アイリーンは礼を言うと、フィンを引き連れ、風呂に向かおうとするが、 「……プリン、貰ったほうがいいよ。おいしかったから」 先程の作為的笑顔でウィニエルに流し目を送ると、俺に耳打ちをして、食堂から出て行った。 そして、食堂に残ったのは俺とウィニエルの二人になった。
to be continued…