前書き
一片:回想の続き。らぶらぶえっち。
「アイリーン、フィンは起きてるか? 食事の用意が出来た」 あれから小一時間程で、料理を作り終え、俺はフィンの寝ている部屋に二人を呼びに行った。 ノックと共に扉越しに、アイリーンに話し掛ける。 「起きてるよー、今行くね。フィン、ご飯だって、下行こう」 「うん!」 アイリーンの返事の後、ガチャリと扉が開いて、二人が出てくる。 「今日は何を作ったの?」 「ああ、ウィニエルが泊まっていくことになったから、彼女が作ってくれた」 「そっか。楽しみ~!!」 「まっまのごっはっん~!!」 三人で階段を降りながらアイリーンが訊ねてくるので、俺が答えると、嬉しそうに白い歯を見せた。 俺の手を繋ぎながら、フィンは上機嫌に音程を付ける。 ダイニングに着くと、先程のテーブルの上に、湯気の出た出来立ての乳白色の鮭の入ったクリームパスタとミニトマトとレタスと胡瓜のサラダ、手作りしたドレッシングの小鉢、そしてバゲットの入った篭に、バゲットに塗る用のオリーブオイルを入れた小皿、濃い赤紫色の葡萄酒の瓶と絞りたてのオレンジ果汁の入った瓶、グラス、スプーンとフォークが人数分、並べられていた。 「わ~! ウィニエルのパスタだ~! やったね!」 「ママのごはん大好き!」 アイリーンとフィンは向かい合うようにして、直ぐに席に着いた。フィンがグラスを手に取ると、アイリーンが果汁の入った瓶を取って、フィンに注いでやってから、自分のグラスにもそれを注いだのだった。 「フィン、お野菜もちゃんと食べてね」 ウィニエルが台所から四人分のスープを持ってくると、俺は彼女の手伝いをするようにスープのカップを一つずつ並べた。 「はーい」 と言いつつ、スープを受け取ると、中に入っている具を探り始めた。そして、小さく切られた人参を見つけて、それをアイリーンのカップに入れる。 「あ、こらこら、ちゃんと食べないとー!」 アイリーンは注意するが、顔は怒っていなかった。 フィンは人参がどうも苦手らしい。 「もー、お返事だけはいいんだから……」 ウィニエルは困ったように“ふぅ”と小さくため息をついた。 なんだか、家族みたいだな。 懐かしい、この感覚。 セレニスやジグが生きていた頃、アイリーンも居て、俺が居て。 セレニスとジグはもう居ないけど、それを埋めてくれる存在が出来た。 俺は嬉しくなって、つい、顔を綻ばせた。 「さぁ、食べようか」 「そうですね」 俺がアイリーンの隣に座ると、ウィニエルも向かい合うようにしてフィンの隣に着席した。 「フェイン、どうぞ」 「ああ、すまない」 ウィニエルが葡萄酒の瓶を手に取って注ごうとするので、俺はグラスを手に取り持ち上げて、少しだけ手前に傾けた。 コポコポと、ワインが注がれると、熟成された葡萄の深い香りがここからでもわずかに香った。 「ウィニエルもどうだ?」 「……じゃぁ、少しだけ」 ウィニエルから瓶を受け取って、今度は俺が注ぐ番。 彼女は酒に弱いから、ほんの少しだけ。 コポポ……。 「あ、もう、それくらいで」 グラスの四分の一程注いだところで、ウィニエルの手が瓶の動きを止めた。 ドリンクも行き渡ったところだし、 「それじゃ、乾杯でもするか?」 「あ、いいね! 私音頭取るね!」 アイリーンが率先して、グラスを持って掲げると、 「二人の再会を祝して! かんぱーい!」 アイリーンの音頭が終わると、グラスをそれぞれくっつけて軽快な音を鳴らしあう。 フィンはグラスが触れ合う音が特に楽しかったのか、何度もせがまれた。 ……再会か。 アイリーンの言った再会というのは、塔に遊びに来てくれたということなんだろうな。 ウィニエルの住むリャノからここまでは随分遠い。 毎度、別れれば物理的に再会出来ないかもしれないと思っているんだろう。 平和になった世の中でも、まだモンスターは居るし、野盗だっている。 旅慣れをしていて、且つ、魔導の心得のある俺やアイリーンならともかく、何の力も持たないウィニエルと俺の魔力を受け継いではいるが、それをまだ自由に扱えないフィンにこうして会えるのは実はすごいことだ。 塔にはあまり来させない方がいいのかもしれないな。 だが、ウィニエルは来てもらうばかりじゃ申し訳ないと言って、きかない。 なるべく大勢の人々が通る道を選び、馬車などを使うよう伝えてはいるが、それもいつ何時なにがあるかはわからない。 「はー、おいしい! 口当たりが良くて飲みやすい。この葡萄酒、どこで買ったんですか?」 人の心配など余所に、ウィニエルは葡萄酒を一口二口、口に含み舌で転がすようにしてから咽喉へと流すと、上機嫌に微笑んだ。 「ああ、それは今日街の市で買ったんだ。フィンが見つけた店で安く手に入った」 「この果汁もそうだよ! 僕、掘り出し物探すの得意なんだ!」 俺が笑顔でフィンに視線を向けると、フィンは自慢気に語りだす。 「あら、そうなの? それじゃあ、今度ママの服、探してもらおうかな」 「あ、私も薬草とか欲しいなー」 「うん! ママもアイリーンおねえちゃんも、まかせてよ!」 ウィニエルとアイリーンに頼られ、フィンは嬉しいのか目を輝かせて、果汁を一気に飲み干した。 「ぷはー!! もういっぱい!!」 「いい飲みっぷりだね~」 フィンがグラスを持ち上げると、アイリーンが目尻を下げて微笑みながらオレンジの果汁を注ぐ。 フィンといると、アイリーンはいつも機嫌がいい。 アイリーンの笑顔を見るとほっとする。 セレニスを見送らせてしまってから、ずっと気になっていた。 今更だが、彼女には笑顔で過ごして欲しいと思っている。 アイリーンお姉ちゃんか……。 見た目は十二歳位だもんな。 アイリーン、 俺が旅していた間、彼女は歳を取っていない。 本当なら、今頃二十歳は越えてるはず。 いつか、彼女に掛かった魔法が解けるといいんだが……。 俺はアイリーンを見ながらそんなことを考えていた。 「おいしい! ウィニエル、腕上げたね~」 「そうですか? お口に合って良かったです」 アイリーンがパスタを頬張りながらウィニエルを褒めると、ウィニエルは嬉しそうに微笑んだ。 「ママのお料理おいしいね、フェインおじさん?」 「ん? ああ。そうだな」 フィンに話しかけられて、俺は目元を緩めて相槌を打つ。 そんな風に食事の時間が過ぎてゆき……。 それぞれのパスタの皿が空になる頃、 「…………っ!?」 ウィニエルが何かはっとしたように、前に身体を一瞬倒しそうになってから、突然俺の方を見た。 そして、瞳で訴える。 ……中に何か入ってるんですけど……、と。 ああ、すっかり忘れていた。 魔法が解けて、気がついたのか。 そう、食事の支度の前に彼女の中に入れた、オリーブの実。 まだ、熟していなくて、黄緑色をしている。 「……フェイン……さっきの……やっぱり……」 訝しげに、ウィニエルが俺を睨む。 少し鋭い目付きの君も、可愛いな。 「………………」 俺は誰にも聞こえないように魔法を唱える。 そう、二つ目の魔法。 先程掛けておいた魔法を発動させるための、魔法。 「なっ!? ……っっつっ!」 カチャンッ。 と、俺が魔法を唱えた途端、ウィニエルがフォークを床に落としてしまう。 「ママ?」 「ウィニエル? 大丈夫?」 「っ……は、はぃ……うっ……」 アイリーンが心配して立ち上がろうとするのをウィニエルが止めに入った。 「……俺が拾おう。大丈夫か?」 俺は素知らぬ振りをして、ウィニエルの落としたフォークを拾って、彼女に渡す。 「あっ……くっ……す、すみま……ぁ……」 ウィニエルの額に油汗が浮かぶ。開いた唇の端から涎が零れそうだ。 瞳に薄っすらと涙が浮かび、酷く艶めいている、その顔に愛おしさが込み上げる。 可愛いウィニエルの顔。 「………………」 俺はもう一度魔法を唱える。 この魔法の所為で、オリーブが彼女の中でうねうねと動いている。 それを少し強くする。 「ぁっ……っ……」 ウィニエルは下を向いて、自分のスカートを握り締めると、今度は歯軋りでもするように唇を強く噛んだ。 見れば、耳が赤い。 アイリーンとフィンにばれないように、必死に耐えるウィニエル。 これも、おしおきの一つ。 ……見てる方もやっぱり辛い。 「ウィニエル、本当に大丈夫? なんだか辛そうだよ、 熱でもあるんじゃないの?」 「いっ……いえ……だ、大丈夫ですから……」 アイリーンの声にウィニエルは顔を上げて、か細く微笑むと、 「ぁぅ……っ……」 また俯いて、肩を僅かに震わせた。 たまらない刺激なんだろうな。 彼女の中で生き物のように振動し、時にうねって、決して外に出て行こうとせず蠢いているのだから。 「……ウィニエル、大丈夫か? ああ、そうだ、デザートもあったな」 俺は少し窮屈になった下半身とは裏腹に、涼やかに微笑しながらデザートを作っていたことを思い出して言ってみた。 「やったー! デザートだって!」 アイリーンとフィンは無邪気な笑顔でまだパスタを食べていた。 「わ、わたし取って来ますっ」 ウィニエルは慌てて立ち上がって、空いた皿をいくつかと、落としたフォークを持つと、台所へ行こうとする。 「俺も手伝おう」 俺も自分の空いた皿を持って、ウィニエルを追う。 「えっ、あ、いえっ、フェインはゆっくりしてて下さいっ」 ウィニエルは付いて来られるのが嫌なのか、俺を突き放すようなことを告げる。 ウィニエルの魂胆はわかっている。 台所で、取り除こうというんだろう。 そんなこと、させない。
to be continued…