あれから随分経つ。 俺とウィニエルの距離は何となくぎくしゃくしてる気がする。 それでも、あいつは俺の元へとやって来るから。 俺も何となく断れずに大人しく勇者を続けている。 あの時のことも、 あの時のことも、 ウィニエルは口に出さない。 俺にはウィニエルが何を考えているのか、さっぱり掴めない。 ……正直以前よりわからなくなっていた。 あの日、頼み事があったとはいえ、どうして何事もなかったように平気な顔で突然現れたのか。 俺にはお前の考えがさっぱり掴めねぇよ、ウィニエル。 ……だが、俺は一つ、少しだけ後悔していることがあった。 「……なぁ、ウィニエル」 「はい?」 俺が声を掛けるとあいつは優しく微笑んで、いつも潤いに溢れている瞳で俺を見つめる。 「……こないだの、ネックレス……ごめんな」 これだけは言っておこうと思ったんだ。 お前の大事な物を壊しておいて、何も言わなかったから。 心の傷は癒えてないが、それだけは言っておいた方がいいと思ったんだ。 「……」 ウィニエルは黙ったまま急に口をぽかんと開けた。 「な、何だよ……」 「……え……あ、いや……すっかり忘れてて。そういやそんなことがありましたね」 あいつは記憶を辿るように視線を宙に泳がしてから、両手を胸の前で軽く叩き合わせた。 なぁにぃ!? 俺の眉間にまたしても皺がよる。 「……ええっと……どこだったかしら……」 ウィニエルはどこにポケットがあるのかわからない服を、首を何度も傾げながら探る。 「……う~ん……確か……」 「? な、何だよ?」 俺はウィニエルの様子にわけがわからないまま、それを見守る。 「……あ、あったあった。はい、グリフィン!」 ウィニエルの右手が拳を作り、その拳を俺に差し出して、左手で俺の手を受け取るように促した。 ウィニエルが右手を開くと、俺の手に何か小さな物が載ったのがわかった。 「……これ……」 俺の手の平には小さなパールが載っていた。 「あのですね……実は、あの時あのパール、外に居たローザにぶつかってたんですよ! それでグリフィンにあげようと思って持ってたんです。でも忙しくてすっかり渡すのを忘れていて……ごめんなさい」 ウィニエルは慌てたように早口で告げた。 いつもゆったりと話すお前がこんな風に早口なのは何故だ? 気にはなったが、とりあえずもう“要らない”などと言う気はなかった。 今はせめて、お前の大事にしている物でも貰えれば、多少は心の傷も癒えるかも知れない。 「……さんきゅ、大事にするわ」 「いえ……グリフィンにはいつもお世話になってますから」 「ふーん……そっか」 「はい」 俺が礼を言うと、あいつは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。 この笑顔は天使としての笑顔なんだよな? 俺という個人に向けられたんじゃなく、勇者の俺に向けられたんだよな? それなら、 それでも、 やっぱり、俺はお前が好きだ。 お前が俺を男として見てくれてなくても。 ……好きなんだ。 「……貰ってもらえて良かったです。それじゃ……私もう行きますね。また……」 「あ、ああ……またな」 「はい」 ウィニエルは満足したように笑顔で帰って行った。 俺も移動中だったことを思い出し、目的地へと向かう。 ウィニエルが同行していないと、何だかもの淋しさを感じる。 「グリフィン様」 俺の耳元で声がした。 ウィニエルがまた来たのかと思ったが、 「あ? 何だ……ローザか。ウィニエルなら帰ったぜ?」 声の主は歩く俺の目の前に姿を現す。 鹿耳に緑の髪の妖精だ。 ウィニエルにどことなく似通った所があって、俺は気に入っている。 「はい。あの……以前ウィニエル様がされてたネックレスのトップですが……」 「ん? あ、これか。さっきあいつに貰ったんだ」 貰ったパールは紐を通して腕に巻いていた。 俺はそれをローザに見せてやる。 「まぁ……。 そうですかやっと渡せたのですね」 「やっと?」 ローザが俺の腕の傍で飛びながら確認し、安心したように微笑む。 そして、刹那いつも通りの業務用とでも言うのか、そんな顔を見せ、告げた。 「……ウィニエル様が何て仰ったかはわかりませんが、そのパールをお探しになるのに三日掛かってます。三日間お役目をお休みになられて泥だらけになりながら探しておられました」 「え!?」 ローザの言葉に俺は耳を疑い、つい大声が出てしまう。 彼女は更に続ける。 「……三日の遅れは大事です。パールが見つかったあと、直ぐお渡し出来れば良かったのですが、三日間の遅れを取り戻すのに大忙しですっかり忘れてしまっていたのですね。……グリフィン様、天使様にあまり無茶を言わないで下さいね」 そう言い終えるとローザは俺の目の前で旋回しながらこちらを軽く睨んだ。 ……気がした。 俺はウィニエルに睨まれたとしても、ローザ睨まれる憶えはない。 けど、ローザは何かと俺に厳しいような気がする。 ローザは多分、ウィニエルのことがすげー大事なんだ。 妖精と天使の間には勇者にはわからない絆ってもんがあるのかもな。 けど、俺はあいつ以外に何か言われんのはどうにも癪に障る。 「……俺は何も言ってねぇよ」 「はい、そうでしょうね。ただ、ウィニエル様がどうしてもグリフィン様に渡したいと仰るので。言い出したら聞かない方ですから」 俺が口を尖らせ告げると、ローザは間も空けずに淡々と返事を返してきた。 俺もそれに応戦する形で訊ねてみる。 「まぁ、それはわかるが……なぁ、俺にどうしても渡したいってどういうことなんだよ?」 「ウィニエル様が探している時に言っておられました」 俺の問いに、ローザは顔色一つ変えずに告げる。 あの日、 あの宿の、 暗闇の草叢の出来事を。 「見つかりませんね……どこかに跳ねて他の場所に行ってしまったんじゃありませんか?」 (私は天使様をお呼びしていたのに、逆に呼び出されて真っ暗闇の中、小さなパールを探していました) 「そんなことない。この近くにあるはずなの」 「そうですか……」 (次の日、グリフィン様がお出掛けになられてる間もウィニエル様は探しておられました) (その次の日も、一度探した場所に見落としがないかと、念入りに) 「……どうしてもグリフィンに貰って欲しいの」 (三日目の夕方、探す手を少し休めてウィニエル様が仰ったんです) 「……何故ですか?」 (私は訊ねました。答えは大体検討はついていまして……ことの他、グリフィン様にはお世話になっているからかと、思っておりましたが……) 『だって、私がずっと持ってた物をグリフィンがこれから持っててくれるなんて、何かいいじゃない。いつも傍に置いて貰えてるみたいで嬉しい。売られちゃったとしても、それはそれで、少しはグリフィンの役に立てたってことで嬉しいもの』 ローザはそこまで話し終えると小さく息を吐いた。 心なしか、落ち込んでいるような気さえする。 「はぁ……その後、パールを無事見つけたのですが、ウィニエル様ったら泥だらけの顔のままで、グリフィン様に渡せるって、満面の笑顔で仰るんですよ? 予定が詰まってましたのに、どう思われますか?」 『まぁ、その後きちんとこなして頂きましたけど……大体……』 ローザの言葉は続いたが、俺は途中から聞いていなかった。 「あいつ……」 俺は急にあいつの顔が見たくなる。 さっき別れたばかりなのに、もう、だ。 珍しく早口だったからおかしいと思ったんだ。 “……実は、あの時あのパール、外に居たローザにぶつかってたんですよ!” あれは嘘だった。 “グリフィンにあげようと思って持ってたんです。でも忙しくてすっかり渡すのを忘れていて……” これは本当なんだろう。 俺から見るとまだまだだが、ローザによれば、ウィニエルは天使としてよくやれてる……らしい。 予定をきちんと立てて他の勇者の評判は上々だと。 ただ、あいつは少しトロい所がある。 素早く事を運ぶのは苦手だから、多少余裕を持ってはいるんだとか。 くっそ真面目そうなローザが言うのだからそうなんだろう。 三日間の遅れを取り戻すのは相当大変だったに違いない。 それでも、俺に渡したいから、探していた。 俺は……。 わかってないのは……俺か? 「……様、グリフィン様」 「ん? あ、ああ……悪ぃ、何か言ったか?」 俺が考え込んでいると、ローザは訝しい顔でこちらを見ていた。 そして、俺がローザに気が付くと、躊躇いながら告げる。 「……天使様はそう軽々とご自分のお気持ちを言えない立場に居られます。それに……いずれ天界に帰られるお方です。……そこの所ご配慮下さいね」 俺に釘を刺しているような気がした。 「……天使様は天界に必要な方なのですから。くれぐれもグリフィン様、ウィニエル様を地上に残すなんて仰らないで下さいね。では、私はこれで」 やっぱり、釘を刺している。 捨てゼリフのようにローザは言いたい放題言って消えた。 けど、その言い方って、 ウィニエルは俺を好きでいても、俺にそれを伝えたりは出来ないってことで。 世界を救って、俺がもし、地上に残って欲しいって言ったらあいつは残ってくれるのか? いや、ローザは俺が“ウィニエルを残すなんて言うな”と言っていた。 ってことは、俺があいつを残すと言えばウィニエルは残るってことだよな。 ってことは、あいつはやっぱり俺に惚れてる……よなぁ? ってことはー…… もう一度自惚れてもいいか? 俺の気持ちはまだまだお前から離れられそうにない。 勇者としても、男としても、天使のお前も、お前個人も。 ウィニエル、お前の愛情表現はすげーわかり辛いけど、少しずつ見えて来たような気がすんだ。 そして、これから一つ一つ見つけて行こうとも思う。 俺の感情にも気付かせてやろうとも思う。 少しずつ。 キスだって、あんな事故みたいなんじゃなくて、ちゃんとしたい。 その先だって、お前となら。 俺は諦めねぇよ。 なぁ、それでいいんだよな。 なぁ。 なぁ、俺の天使。
後書き
さて、わかってないのはどっちでしょう?
グリフィンさんが大好きです。恋するグリフィンさんが大好きです。
口は乱暴なのに何だかんだで優しいグリフィンさんが大好きです。
というわけで、恋するグリフィンさんを書きたくて書きました。
『微笑んで、オヤスミ』から三ケ月後? とか、続きみたいな感じになってます。
「気持ちをわかってくれよ!」とかいう思いですが、ひっじょ~にわかりますが、私は押し付けは何気に嫌いです(え)
書いててちょっと反発していました(苦笑)
「わかってくれ」とかいう前にむしろ、「お前がわかってやれよ」と思ってしまいます。
先ずは望むのではなく与えて欲しいと思うのです。でも大事な人には歯痒くてそう思うのは当たり前なのかも。
お互い与え合えたら幸せですねぇ~♪
ウィニエルさん何かアフォみたいですね……。所々ただの変な女になってます。
インフォスのウィニーって今ひとつ性格が掴めない……。
ちなみにパールのネックレスなんてもんは、ゲーム中に存在しておりません。パールのピアスならあった……かな。
ドリーム小説ですから♪
ちなみに、気まずい雰囲気の二人にフロリンが入ったのはローザの配慮からです。
んーでも、配慮なのか画策なのか、どちらなんでしょうね(笑)
私の書く話って大体両思い前提のすれ違い話が多いです。(……そういうのが好きなんですね、多分)
というか、そういう好意すらないとお話を作るのって難しい。
片思いで押して押して~ってのはあるかもだけど。私的には無理が。振られると可哀想なのでそういうのはあんまり書きません。
こんな所まで読んで頂いてありがとうございます。もう、毎度有難いやら、申し訳ないやら。
拙い文章ではありますが、楽しんで頂けてたら幸いです。
さて、このお話、続きものではありませんが、続きそうな気配がします。
良かったら感想聞かせて下さいね。