もう一つの未来①

前書き

エンディング後の話。さて、ウィニエルは天界に還ったのか、地上に残ったのか。
かなりラブ度が高くて甘い? キスとかもしてたり。やや大人向けな表現もあったり、天然も健在してたり。うう~ん……説明が上手く出来ませんが、春ですし(は?)哀しいお話ではありません。ラブラブな二人がお嫌でなければ。

『……約束です』

 約束をしたんだ。
 何の保障もない不確かな約束を。

 たった一つ。
 強い想いだけをその心に預けて。


◇


 暗い街中で、一人の男が女を待っていた。

 たった一人、
 未来の約束を交わした女を。

 女というのは以前は妙な翼を背に付けた天使。
 次に出会う時、その翼はないはずだった。

 だが、男の元にやって来た女の背には翼が付いたまま。
 純白の翼が夜の街の僅かな明かりを受けて輝いている。

 まるで、男にその存在をしらしめるように。

 天使は、天使のまま。
 人間にはなれないと言う。

『お、おい……どういうことなんだ? 天界に戻るっていうのか!? ちょっと待てよ。約束しただろ!?』

 男が女の肩を掴んでそう告げても、女は俯くばかり。

『そばに居てくれるって思ってたのにいなくなっちまうっていうのか? もうどうしようもないのか?』

 男の声に女は顔を俯かせたまま、地面に黒い染みを作り始める。

『そうか……いくらあがいたところで無駄なんだろうがな、でも言うぜ……。俺はお前にここに残って欲しかった! 今度は、お前を守るんだって思ってたのによ……』

 男が声を荒げて告げても、女は一向に顔を上げず、地面の染みが増えてゆくばかりだった。

『行っちまうんだな……天使なんだから、仕方ないんだな……。わかったよ……行けよ! 行っちまえよ! じゃな!』

 俯いたままの女の肩を男は突き放すように押す。

 そして、男はすぐにその場から逃げるように立ち去った。


「……グリフィン!!」


 背後から女の声が聞こえたが、男は振り返らなかった。
 振り返った所で、女は男の元に戻りはしない。

 それきりだ。


 男の名前は……グリフィン。


 ん……?
 それは、俺か?


 じゃあ、女は……あいつ?


 あいつは……。
 天界に帰ったのか……?



「グリフィン」
「んあ?」

「もう朝ですよ。朝食出来てますけど?」
「あ、ああ……」

 あいつに声を掛けられてベッドでうつ伏せの状態で寝ていた俺は目を開いた。 俺の顔を覗きこむようにあいつが両頬に手を当て、ベッドに肘を着き、膝を床に着け跪いていた。

「ウィニエル、お前……」

 俺はあいつの片方の腕を掴んで引こうとしたが、

「どうしたんですか? 何か嫌な夢でも?」

 あいつが首を傾げて柔らかく微笑むから手を止めた。


「……いや? キスしたい」
「えっ!? う、わっ!?」

 それからあいつの腕を引いて、ウィニエルの身体を反転させ、俺の上になると肩を引き寄せて唇を重ねた。

「んん」

 ウィニエルは嫌がったりせずに大人しくその行為を受け入れる。
 あいつの飴色の髪が俺の鎖骨に触れ、俺はそれをこそばゆく感じながら、あいつの唇を舌で強引にこじ開け口腔内を貪る。

「うむぅ…ううっ…… ちょ、く、苦しいっ……」

 あいつは息苦しそうに僅かな隙をついて呼吸していたが、嫌がる気配はなかった。

 朝、俺を起こしに来る時、あいつは朝食を作ってから来る為か、ほぼ毎回真っ白な大きなフリルの付いたエプロンを着けている。
 リディアから貰ったとかで、可愛いし、似合うんだが、暑い季節は薄着の上に着用するもんだから、エプロンしか着けていないように見えて、時々妙な気分になる。

 今の季節は春だからそんな気分にはならなかったが、俺はしばらくあいつを放してやらなかった。

 あいつも頬を赤らめて、俺の行為を素直に受け入れている。
 意外と、好きなのかも。

 なんて。


「……ぷはぁ~……はぁー…息止まるかと思っちゃいました」

 あいつが俺の腹の上に跨ったまま顔を赤らめて、口元に右手を当てながら恥ずかしそうに微笑む。

「ぷはぁ~って……発泡酒でも飲んだみたいな言い方すんなよなー」

 俺は見上げながら右手であいつの左手を取って、指を絡め手を繋ぐ。

「あは、ごめんなさい。だって、グリフィンてば突然だから」

 ウィニエルは右手を口元から放して、その手を俺の胸に着ける。
 掌が俺の胸に触れ、そこから熱が伝わって来る。あいつの手は温かくて、冷えた胸がじわりと心地良い熱を感じた。

「…………」
「ん? 何だ?」

「……本当は、嫌な夢、見てたのでしょう?」

 あいつは黙り込んで俺を見つめた後、哀しそうに笑う。

「別に、何も…… えっ!?」

 お、おい!?

 と俺が慌てふためくのも構わず、あいつは俺と手を繋いだまま、右手もそのままに、器用に身体をずらして俺の胸元、心臓辺りに顔を近づける。


「……うそつき」


 胸元に置いた右手越しに解き放たれた短い言葉。
 それを告げた後、あいつは顔を上げて目を細め、俺を冷ややかに見つめる。

 その眼といったら、怪しいのなんのって。
 唇はさっきのキスで唾液が一部はみ出したまま、潤ってる。

 それに触れたのはたった少量。
 親指と人差し指の間から僅かに零れたあいつの熱い息が、瞬時に俺の全身を駆け巡った。

 ごくり。

 と、
 生唾が喉を鳴らした。


 誘ってんじゃねぇよな?


「う、ウィニ……」
「…………」

 俺があいつの名前を呼ぼうとした途端、ウィニエルは突然頬を膨らまし、俺を軽く睨んだ。

 それから、

「ほらっ! 起きて下さい!! ごはん冷めちゃいますから!」

 ぺちぺちと、あいつの右手が俺の左頬を叩いた。

「あ、ああ……」

 俺はまた、てっきり誘っているのかと思ったが、どうやら違ったらしい。

 俺の淡い期待はもろくも崩れ去った……。


「タオル、用意してありますから、ちゃんと顔洗って下さいね」


 いつの間にかあいつは俺の上から退いて、部屋から出て行こうとしていた。
 ドアを開けて出ようとした際、ちらっとだけ、振り返って俺を見たが、何故か口を尖らせて、不満気な顔をしている。

 何か怒っているようだ。
 何でだ?


 “うそつき”


 さっきの言葉がふと脳裏に浮かぶ。

 うそつき……?

 俺は嘘を吐いた覚えなどない。
 夢の話などしたってしょうがない。

 ここは現実。
 あいつは俺の元に存在しているのだから、それでいい。
 あいつに余計な心配を掛けたくもない。


 どうしてあんな夢を見たんだか。


 そう思うと、あいつはどうして地上に残ったのだろうと疑問が浮かぶ。
 俺が残ってくれと言ったから。

 ……それはわかってる。


 ただ、あれから半年経ったけど、俺とあいつの関係はあまり進展していない。
 一緒に暮らしてはいるが、夫婦ってわけでもないし。

 仲はすこぶる良好だけどな。


 ウィニエルの翼は無くなったけど、あいつは俺にとってはいつまでも天使なんだ。


 天使。


 夢で見たあいつは泣いていた。
 天界で役目があるから地上には残れないと、俺の目を決して見ようとはせずにただ、俯いて。
 堪らなくなって、夢の中の俺はその場から逃げ出したけど、背後から俺を引きとめようとするあいつの声がまだ耳に残ってる。
 夢の中の出来事なのにはっきりとまだ。

 天界に還ろうとする夢の中のあいつは俺が嫌いだったわけじゃない。
 一度は俺を受け入れたのだから。

 けれど天使仲間に引き止められたのかもしれない。
 自分の立場を捨てることが出来なかったんだろう。
 現実のあいつは地上に残ったことを後悔してないんだろうか。

 あいつは、
 翼も、天使の能力も全て天界に置いて来たと言ってた。

 俺の我侭で地上に縛り付けた、俺だけの天使。
 俺は後悔してない。


 なら、ウィニエル、お前はどうなんだ?
 何で、あんな夢を見せた?


「グリフィン! 早く起きてって言ってるでしょー!」

 刹那、ドアが勢いよく開いて、ウィニエルが俺を睨み付けた。

「お、おう……」
「今日は、約束の日なんですからねっ」

 俺の様子などお構いなしに言いたいことだけ言って、あいつはドアを開けっ放しにしたまま走り去って行った。
 人の気も知らないで、大声出しやがって。

 しかし、何であんなに怒ってるんだろうか。

 あいつって、いつもは温和なんだけど、どっかでスイッチが入ると急に怒り出すんだよな。
 そのスイッチがわかりづらいのなんのって。

 怒った顔も可愛いから、つい暫く放っておきたくなるんだけど。
 あんまり放っておくと泣くからな……。

「約束か……」

 呟いてみたが、何の約束だったか思い出せない。


 何か約束してたっけ?


「グ~リ~フィ~ン!!」
「ああ! 今行く!」

 あいつの声が再び聞こえて、俺は条件反射のように返事をした。
 とりあえず、飯にするか。


◇


 食卓に着いた俺に、いつ直ったのか、あいつは機嫌よくトーストを焼いてバターを塗ると、俺に渡してくれた。
 俺はあいつの作った朝食を平らげる。
 あいつはそれを静かに見ていた。
 いつにも増して言葉数が少ないような気もするが、目が合うと微笑むから、さっきまでの怒りはもう消えたらしい。

 何で怒っていたのかこれじゃわからん。

 ……まぁ、いいか。

 意外や意外、あいつ料理が結構出来るんだ。
 苦手なメニューも中にはあるらしいが、普通に食えるし、普通に美味い。

 というか、俺はあいつの料理なら美味かろうが不味かろうが、関係なく全部食うけどな。

to be continued…

次へ

Favorite Dear Menu