贖いの翼・番外編1:泡雪⑤ ウィニエルside

「……ああ……俺も…………っ……ハッ、くしょんっ!!」

 フェインは私の顔を覗き込んで優しくふわりと微笑むと、また一つ大きくくしゃみをする。
 私はくしゃみをする彼が愛しくて、見上げたまま変わらぬ表情で微笑んでいた。

 私は彼の表情全てが好きだ。
 天使の私はそれに魅了されて已まないの。

「そんなに笑顔で見るな……ウィニエル……っ……」

 彼が鼻を啜ってばつが悪そうに口を歪めた。
 やっぱり寒いようだ。

「……だって、フェイン可愛いんですもの」

 私は彼の胸に顔を摺り寄せる。

「可愛い? 俺が? ……俺のどこが?」
「…………内緒、です。ほら、フェイン、早く部屋に戻って下さい。風邪引いちゃいますよ。私もう少しここに居ますから」

 彼が私に訊ねると、私は彼の胸を軽く押した。

「……あ、ああ……悪いな……じゃ、これ」

 彼はそう告げると、私の肩にローブを掛けて、鼻を啜りながら部屋へと戻っていった。
 彼が戻った部屋の中から鼻をかむ音が聞えてくる。
 同時に、大きなくしゃみが、三回。

「…………ふふっ……フェインってやっぱり可愛い……」

 私は手すりを持ってもう一度空を見上げた。

 さっきまで澄んでいた空はいつの間にか真っ暗な闇に覆われ、月をどこかに隠してしまった。星々ももう見えない。

 その代わり、
 その代わりの白い綿。

 白い雪がちらほらと舞い始める。
 生まれたての柔らかい羽毛達。

 片手だけ、空に掌を向ける。

 私の掌に小さな泡雪が一つ、舞い降りた。
 それは私の手の中で瞬時に消える。


「……泡雪……」


 私はそれを見届けてからまた、漆黒の闇を見上げた。
 舞い降りる雪の量がさっきより増えている。


 この雪は積もるだろうか?


 こんなに軽い雪は積もらないかもしれない。
 積もったとしても直ぐに溶けてしまうだろう。

 でも泡雪はそこに降ったの。

 火照った私を癒してくれる。
 私の髪に、肩に、腕に、足に。

 自らを溶かして私を癒す。


 私もそんな泡雪のように。


 彼の泡雪になれたら……いいな。

「……ウィニエル、君も部屋へおいで」

 フェインの声が聞える。

「……その格好じゃいくらなんでも冷えるだろう?」

 彼は窓を開けて毛布を纏いながら私の方を見ていた。

「へ……?」

 私は彼の目線を辿った。私を呼ぶ時、彼は大体私の目を見るのに今、彼の目線は下方。ローブから少しはみ出た私の足元。

「っ!? やっ……フェインっ!!」

 私は自分の足元を見てからフェインを睨んだ。
 今の今まで気付かなかったけれど、彼の手によって下げられたショーツが片足首にだけ丸まった形で絡まっている。

 つまりは私、今ショーツを穿いてなくて。

「すまない、上げるのをすっかり忘れていた。上げようか?」

 彼が毛布を纏ったまま部屋から出てくる。

「け、結構ですっ!! ……もぅ……恥ずかしい……」

 頬が一気に高揚し、私は足に絡まったショーツを肌に滑らせて床に落し、それを取ろうと腰を屈めた。

「……っ……やっ……」

 私は中途半端に腰を屈めたまま動きを止める。
 私の内太股に生温いような冷たいようなねっとりした感触が伝う。

「……ウィニエル……?」

 彼は私の元へ近寄って、私のショーツを手に、穿かせようとしゃがみ込んだ。

「っ……フェイン……やめて……触らないで……」
「え……? ほら、穿かせてあげよう。足上げて」

 彼は私の制止も聞かず、丸まったショーツを元の形に伸ばし私に足を上げるよう促す。でも、私は足を上げなかった。


 だって、少しずつ、少しずつ、流れていく。


「……っ……いいんですってば……自分でやりますから……っ……ううっ……」

 私の内太股を尚も緩い感触が伝っていく。

 少しずつ、少しずつ。
 私から溢れ出ていく。

 私に、中に居るのは窮屈なのだと言ってるような気がする。

「……ウィニエル……まだ足りないのか……? ……参ったな……」

 フェインは複雑に眉を強張らせ苦笑した。

「ち、違っ……!!」

 私は頭を激しく横に振るうけれど、彼はまた足を上げようとする。

「また、明日すればいいだろう? ほら……」

 彼は何だか嬉しそうに私の足首を取る。

「だから、違うんですってばー!! ……っ……」

 私の膝が刹那砕け、全身の力が一気に抜けた。

「ウィニエル!?」

 私は前のめりに彼の背に覆い被さってしまう。毛布に包まれている彼の背は柔らかくて温かくて大きかった。

「……大丈夫か……?」
「……ご、ごめんなさ……」

 私は彼の背に腕を付いて立ち上がろうとする。
 けれど力が入らず、立てない。

「…………」

 彼は自分の背から中々退こうとしない私を静かに待っているようだった。

 でも、それは違っていた。

「!……っ……」

 彼が小さく唾を飲み込む。

「……?」

 私は何度も彼の背に手を突くが、力は全く入らなかった。

「…………」

 不意に彼の手が私の内太股に触れる。

「え……あっ……!」

 私の顔が瞬時に熱く上気した。
 私の足を伝うそれに彼は気付いたのだ。

 彼は何て思った?

 フェイン、あなたはどう思ったの?

「……っ……ううっ……見ないで……」

 頭の中が恥ずかしさで飽和している。
 私は彼の背に突っ伏して肩を震わし涙を零した。

「…………」

 彼はまだ無言で。

「……ひっく……っ……」

 私は彼に覆い被さったまま毛布を握り締めた。

「…………」

 彼はそれでも無言だった。

 でも、しばらく間を置いて、彼は告げる。

「…………ウィニエル……部屋に戻ろう……」
「……えっ……あっ……!?」

 彼はそのまま私を持ち上げ、背負ったまま部屋へと戻る。

 部屋に戻るとフェインは私をベッドへ静かに降ろした。そして彼は私を挟むようにして両脇に腕と膝を立てて見下ろす。

「……フ、フェイン……?」

 丁度腰に枕が入り込み、半分上体を起こした形で私は彼を見上げていた。

「……ウィニエル……ゆっくり休むといい……」

 彼はそう告げると、自分に纏っていた毛布を私に掛ける。
 フェインの顔は少し申し訳なさそうだった。

 だって、まだ、少しずつ、彼のが出てくる。

 その感触が気持ちいいような、悪いような……。
 太股を伝う泥状の温い感触は意識してしまうと妙に変な気分になってしまう。
 考えるだけで熱が出そうだ。

「…………は、はい……でも……」

 私は返事をしてからバスルームの方へと視線を流した。

 妙な感触を拭い去るためにも、一刻も早くシャワーを浴びたい。

 さっき、したのと、今の、と。
 何回分?

 彼の白い液体で私の身体はベトベトだ。
 ううん、一部は乾いて肌にこびり付いている。
 だって、彼は自分の精液を纏ったまま気に止めもせずに私の身体を触っていた。

 これが、完全に乾くと取る時少し痛いの。
 だから早くお湯で流してしまいたい。

 身体が疲れて言う事を利かないけれど、今は熱いお湯に浸かりたい。

「……ん?」

 彼が軽く首を傾げて優しく微笑む。

「……バスルームに行きたいんですけど……その…………乾いてくると……その……」

 私は両手の人差し指を合わせながら頬を赤らめて彼を上目遣いで見つめた。

「……え゛……あ、そ、そうか……すまない、気が付かなくて。行っておいで」

 彼は毛布から出ている私の顔や肩、髪を見るなり、苦笑いを浮かべる。

 だって、私の鼻先や口元近く、肩に半乾きのソレと、髪にも触れたのかソレが所々くっついてしまっている。頭の天辺辺りにも付着しているみたい。

 早く流さないと髪を切らなくちゃいけなくなるでしょう?


 それに、においもちょっと……ね。


 彼の重みがベッドから離れる。

「はい…………」

 私は返事をしたものの、全く立てなかった。
 腕にも、腰にも、足にも全く力が入ってくれない。

「ウィニエル? どうした?」

 フェインは直ぐ傍に立って、私の様子を見下ろした。

「ええと……そのぅ……た、立てなくて……」

 私はかろうじて上半身をフェインの方へ向ける。

「……! ……そ、そうか……わかった……俺が運んでやろう」
「わっ……!?」

 フェインは私の言葉を聞くなり、私の背と膝の裏に腕を忍ばせ軽々と抱き上げる。私の身体が弓形に抱き上げられ、私は大人しくそのまま彼を見つめる。

「…………そんなに…………たか?」

 彼が躊躇いながら私の耳元に訊ねる。

「あっ……フェイン息掛けないで下さいってば……!!」

 私の身体がフェインの声に勝手に反応し、肩が震えた。でも、今はまだ理性の方が勝っている。

 というか、流石にもう疲れ切ってしまってそんな気にはとてもなれそうにない。

「……ああ、すまない。でも答えてくれないか?」

 彼はそう告げた後、私の頬に軽い口付けを何度もする。
 私の身体にはあなたの白い液体が付いてるのに。と思ったけれど、彼は自分のソレが付いていても、気にならないみたい。

「んっ……あっ。やっ、フェイン、やめてっ……くすぐったいっ!!」

 彼の口付けは軽く、啄ばむ様に乱暴だった。
 けれども彼の唇が触れた場所が徐々に熱くなる。

「答えてくれ」
「っ……も、もうっ……フェインっ!!」

「ウィニエル」

 私が怒っても、彼はキスをやめなかった。
 私も根負けして、観念する。

「……わ、わかりましたっ。私もう、クタクタです。明日、起きれるかわかりません……フェインの所為ですよ……? 明日他の勇者の所に行かなくちゃいけないのに、どうしてくれるんですか?」

 私は頬を膨らましながら彼に告げた。


「…………なら、一緒にいればいい」


 言い終えると、フェインは私の唇に自分の唇を重ねた。

「んんっ……」

 私とフェインはそのキスをスイッチ代わりに、互いに夢中になってキスをする。
 あんまり長くは出来ない。

 でも、

 舌を絡めて、唾液と唾液を混ぜ合わせて、唇が離れると細い糸が二人をまた引き寄せる。激しく絡み合う唾液の音。部屋の中も外も静まり返ってるから余計に際立つ。


 こんなキスをしてはいけない。


 これでは全て溶けてしまう。
 これ以上溶け合う前に、止めなくちゃ。

「んはっ……だ、だめっ……!! …………はぁっ……はぁ……」
「……っ……あ、ああ……」

 私は力無い腕で、無意識の内に彼の胸元に手を押し宛てていた。

 これは、彼の為だ。

 彼のあの人への愛を消さないために、私はこれ以上彼とキスをしてはいけないの。
 彼がそれを望んでいると、私は知ってるから。

「……シャワー……だったな……」
「……はい……」

 私達二人は直ぐに冷静になって、バスルームへと向かった。

 ただ、参ったのは……。
 その先。


「俺が洗ってやろう」


◇


 ――次の日、案の定私の身体は全く動かず、泥のように一日中眠って過ごした。彼は私を心配してか、傍に付き添ってくれていた。夜になって私が目を覚ますと、フェインは少し反省した様子で私の頭を撫でた。
 けれど、時折妙な気分になるのか寒い中一人でバルコニーへと何度か出て行って、大きくくしゃみをする。

 彼は少し勘違いをしている。
 私はいつでも元気だって。

 私は確かに丈夫だけど、壊れないわけじゃないの。
 愛をくれなくてもいいから、ほんの少しだけ。
 ほんの少しだけ、労わって。

 あなたから与えられる痛みも快楽も、私にとっては大事なもの。


 全部受け止めるわ。


 私があなたにあげられるものは最高の快楽。
 愛もあなたにあげたいけれど、あなたにそれを受け取る器がないから、あげることは出来ない。
 押し付けの愛は押し付けでしかないから、私は押し付けたりなんかしない。

 それでいいの。

 だから、快楽をあげる。

 私の中にあなたを満たすのと同じで、あなたの中に私を満たして。
 心じゃなくて、身体だけで構わない。


 一時の安らぎを。


 泡雪のように、溶けてなくなるまで――。

end

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後書き

※今回の後書き何故か長いので要注意。無駄に語ってる(笑)

 今回は本編と繋がってません。
 いや、正確に言うと繋がってますけども。

 ウィニエルさん淫乱は大罪とか言ってますが、本編で誘ってたような気がします……。っつかかなり淫乱だよね、彼女。
 でもフェインのこと大好きなんでしょうね~。彼のことなら何でも受け止める気でいるみたいです。典型的受け身女性ですね~。
 エムですね、きっと。

 しっかし、何だか色々矛盾ばかりー(汗)
 矛盾してるなーってとこがあったら心の中で心置きなくツッコんでおいて下さいね!(笑)

 フェインさん、ウィニエルのことかなり勘違いしてますね。
 何がっていうのは、あれです。あれ。
 天使は中出しでも大丈夫と多分勝手に思ってます。
 ウィニエルもウィニエルでそういうこと教えられてませんから知りません(オイオイ)。
 でも避妊しよーよってね。
 彼はやや鬼畜仕様なのでまぁ、いいか(よくない)。

 私は鬼畜なのは構わないですが、愛の無いえっちは好きじゃないので、書く時に本能だけむき出しな話にならないように心掛けています。
 ようは愛があれば、いいんです。
 形が歪んでいようとなんだろうと、愛さえあれば苦も楽となる(はぁ?)……とか何とか言ってますけど、フェインとウィニエルの関係って……愛が伝わり辛い……。
 そもそも二人の関係がすっごい微妙で未だに掴めていないし(泣)

 この回のフェインとウィニエルはあまり罪悪感は憶えていません。というのももう、割り切ってるから。特にフェインはそう。
 ただ、ウィニエルはフェインに抱かれる度に彼のことが愛しくなって切ないみたいです。
 不憫な娘だなぁ……。
 でも今回は結構幸せな時を過ごしてるような気がしなくもなかったなぁ~、と。
 ただ残念なことにまだまだ二人に互いを愛しみ合うという時はやって来ません。……っつか、かなり愛し合ってるようにも取ろうと思えば取れるか、な……?

(障害がねぇ……。そこがまた萌えなんですよぉ♪)

 ……まぁ、その辺は読む側にお任せします。

 フェインがバスルームにウィニエルを運んで何したかー……まで書こうと思ってたんですけど、今回は外えっちでおわりです。
 フェイン的にはウィニエルの股から自分の精液が出てくるのにちょっと罪悪感を感じちゃってるようです。
 っつか、なら外に出せよ。むしろ避妊しろよ。とか色々ツッコミ所は満載です。
 以下は正しいツッコミの仕方になります(何ソレ(笑))。

*正しいツッコミの仕方*
 外でするなよ! 凍死したいのか!? とか(ちなみに気温は二・三度前後)、ウィニエル、やっぱり声でかいって! とか。
 宿屋さんもこの二人毎度汚すから大変だろうなー……とか(大笑)。
 フェイン、ウィニエルのショーツどこやった!?とか(笑)。
 時々お前等二人おかしい(普通に苦も無く変態になる)よな!? とか、……部屋相当臭いだろうな……とか(鬱)
 手すり拭いたのかな? とか。エトセトラ。
 ほら、ツッコミ所は満載。楽しい!(え)

 っつか今回最初から最後までヤッてましたね……。
 というのも、「贖い~」が18禁小説な割りにエッチが少ないので書いてみたのです。
 友人に二回で出来たのか!? とか言われたので、何か反抗したくて(笑)
 二回じゃないんだよー!! 書いてないだけで、相当頑張ったんだよ!!(頑張ったって何だよ(笑))

 そして最後わけわかんないですね~。
 ラブラブなようでラブラブじゃないもどかしい二人が書いてて楽しいです。ウフ。
 背徳感がすげー堪らん(笑)

 グリフィン×ウィニエル(18禁)も今度書きたーいです。
 処女喪失とか?
 この二人なら超ラブラブなのになぁ……。ラブラブ好き♪

 後書きが長くなりましたが以上です。

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