「……それにしても、ラミエルが頭抱え込んでるなんて珍しいわね」 ウィニエルは心配して、ラミエルの頭を撫でる。 「……うーん、そうなんだよね……」 「なにがあったの?」 話してみて? とウィニエルが瞳で語りかけて来ると、 「……うー……」 ラミエルは目を細めてロディエルを見た。 「ん? 何だよ、俺が聞いちゃマズイのかよ」 ロディエルはラミエルの部屋にも関わらず、勝手にベッドに横になっていた。 「……別にまずくわないけどー。聞かれたくなーい」 口を尖らせ、ウィニエルの腕にしがみつく。 「……そっか。んじゃ聞いてやる」 「んがーっ!! ロジーのいじわる!!」 あかんべぇをして、ウィニエルを見上げると、 「……ロディエルもラミエルのこと心配なのよ」 意外にも、ウィニエルはロディエルの味方をしたのだった。 「え……ウィニエルがそういうなら、いっか。でも! ……云わないでよね」 「余計なことは云わねーよ」 ロディエルの格好はだらしなかったが、返答はまともだった。 「……ウィニエルはさ、インフォスに好きな人居る?」 「えっ!?」 ラミエルの直球に、ウィニエルは……、 「……えと……あの……その……」 答えに戸惑い、口ごもってしまう。 「……あのね、私は派遣された世界で好きな人は作らないって決めてるの」 「………………」 ロディエルは何故か納得したように二度頷く。 「……だってね、好きになっちゃったら、離れるの辛くなるでしょ?」 「……ええ……そうですね……」 ウィニエルは俯いて、ラミエルから視線を逸らした。 「私達天使は天界に還らないといけないんだよ」 「……はい」 「……そうなった時、哀しいじゃん。辛いし、淋しいし」 「……そうよね……」 「……だからね、好きにはならないって決めてるの」 「……好きにはならない……って決めてるの?」 ウィニエルは再びラミエルに視線を戻して訊ねる。 「うん、そう。そりゃあ、分け隔てなくみんな好きだよ? でも、特別な“好き”の感情は抱かない。でないと困る」 「困る? なにが困るんだ?」 ロディエルも、ラミエルに訊ねる。 「……決めたものは決めてるし、とにかく困るの! もし、地上に残ったとしたって、ウィニエルとロジーと離れるのはイヤだし。困るでしょ?」 「……まぁ、そりゃ困るっていうか……辛いよな」 ロディエルは二人を大事に想っているからか、素直に意見を述べた。 「ええ……でも、好きって気付いたら、どうしたらいいの?」 ウィニエルが予想外の質問で再び訊ねる。 「え……」 ラミエルは口を開けて、ウィニエルの言葉を待った。 「……あ、ううん、何でもないの。ただ……気付いたら好きだったってこと、あるかなって……」 誰を想っているのかわからないが、ウィニエルは頬をほんのりと赤く染めた。 「……よ、予告されてたら、大丈夫だよねぇ?」 ラミエルはウィニエルに縋るように腕を強く掴んだ。 「え?」 その様子にウィニエルが首を傾げる。 「だ、だって、前もって云われてるなら、こっちも心構えって出来るじゃん?」 うろたえて、ウィニエルに訴える。 「……はぁ? なに言ってんの、お前」 ラミエルの様子に、ロディエルは起き上がって首を傾げた。 「じ、自分だってなに言ってんのかわかんないよー!! だって、好きになんてならないんだから!!」 今度はロディエルの腕にしがみつく。 「……お前、なに怖がってんだよ?」 「……怖がってなんていないよ! ただ、困るからっ!!」 ラミエルは必死の形相で、告げると、ロディエルは何かに気付いたように、 「……ほぉ……なるほどな……」 ラミエルの手を解いて、立ち上がった。 「……え……?」 「……俺は地上へ戻るぜ。勇者が待ってるからな」 部屋から出ようとラミエル・ウィニエルの横を通り過ぎる。 「ろ、ロジー……?」 「……いいんじゃねーの? 好きな奴くらいいたって。居ないより居た方が護り甲斐もあるだろ」 ……まぁ、俺には居ないけどな……。 「……ロディエル……」 最後の一言は、距離的にウィニエルにしか聞こえず、ウィニエルはロディエルの背中を見守っていた。 「……護りがいなんて要らないよ……元より大事にしたいって思ってるんだから……」 「ラミエル……」 「……うーん。やっぱり、困るよ……」 はぁ、とため息をつく様子に、ウィニエルは静かに、ラミエルの肩に手を置いた。 「……あのね、ラミエル」 「ん?」 「……大丈夫よ。私は、自然でいいと思うな……」 ラミエルを安心させようと、ウィニエルは微笑む。 「え……」 「……ラミエルが責任感が強いっていうのはわかっているけど、抱えているものが何かは私にはわからない。でもね、誰かを好きになるって、そんなに困ることじゃないと思うの」 ウィニエルのその声は穏やかで、誰もが落ち着く声色。全てを包み込んで許してくれるような優しさが溢れていた。 「ウィニエル……」 ラミエルがウィニエルに釣られてうすく口角を上げる。 「……不安はあるけど、困ったりはしないわ」 迷いの無い瞳でラミエルを見つめる。 「……そっか、ウィニエルには居るんだもんね」 ラミエルは悪気なく、笑顔で告げた。 「えっ、あ、えっと……」 ウィニエルはこの話題に触れると途端口ごもってしまう。 「……てか、バレバレだし……。たださ……、最後のこととか考えてる?」 じとっとウィニエルを横目に見てから、無表情で告げたのだった。 「……最後……?」 「別れなきゃいけないんだよ。私達は天使だから。ウィニエルはそれでもいいの?」 ウィニエルのことを知っている上で聞いていたが、責めるような言い方ではなかった。 「……私は……」 「……私はね、それが辛い。地上に残ってくれって言われたとしても、私は残るつもりはないから」 何の躊躇いも無く、ラミエルは残ることは絶対にないと、断言する。 「……ラミエル……でも、まだ堕天使を倒していないのだし……」 ウィニエルは今の現状を見ながら応えたが、 「勝つよ」 「え……」 「私達は絶対勝つ。負けるわけない。だから、未来のことを語れるの」 「ラミエル……」 ラミエルがきっぱりと言い切るものだから、ウィニエルは逆に不安になって、彼女の顔色を伺った。 「私は、インフォスを護るし、ウィニエルもロジーも護るよ。でも、インフォスには残らない」 迷いのない瞳がウィニエルを真っ直ぐに見つめる。 「……それでも、惹かれるなら、好きになる」 ウィニエルは自分のことに置き換えているような云い方で、小さく告げるが、ウィニエルの言葉を打ち消すように、 「好きにはならないよ」 頭を横に振るう。 その様子にウィニエルは少し間を空けて、口を開く。 「……ラミエル、さっきのことだけど……」 「ん?」 「……私は、最後に離れ離れになるとしても、後悔はしないわ。好きって気持ちは、事実なのだから」 頷くような仕草で、自分の胸に両手をやり、心臓を覆うようにした。 気持ちを包み込むような、その表情は穏やかで、満たされているような顔だった。 「……私にはわからないよ……」 ウィニエルの表情にラミエルは視線を床に落とす。 「……あのね、上手く……言えないけれど、別に構えなくてもいいと思うの。きっと、大丈夫だから、ラミエルはそのとき感じた気持ちを大事にすればいい」 「……そのときのきもち?」 「……うん。好きにならない、なる、とかじゃなくて、そのとき、どう思うか」 ウィニエルはラミエルに諭すようにそう告げる。 「……私……」 ラミエルの中には葛藤があった。 好きになってはいけない、 そう思えば思うほど、惹かれる。 けれど、好きになったら苦しくなる。 「……私には、わかるわ。ラミエルはもう……」 ウィニエルが見透かしたかのように指摘する。 「……言わないでよ、ウィニエル。気付いたら終わりなんだから」 「そこまで頑なに拒むものなの?」 ラミエルの頑なな態度にウィニエルは不思議そうに訊ねてくる。 「……ウィニエルにはわかんないよ。抱えているものが違うんだから」 「え……?」 「……もう帰って、この話題は終わり」 「ら、ラミエル?」 ラミエルはウィニエルを部屋から追い出すように手を取り、ドアへと促す。 「……大丈夫だよ。そのときの気持ちを大事にすればいいんでしょ? そうするから、大丈夫……ありがと、ウィニエル」 強制終了させるように、ラミエルは自分を心配するウィニエルを部屋から出してしまう。 「ラミエル……何か辛いことがあったら、いつでも相談してね」 ウィニエルが部屋から出ると、ドア越しにそう聞こえた。 「……うん」 ラミエルはドアに額をつけて、静かに応えた。 「……私はインフォスに残れないんだよ。私が願っても。ウィニエルやロジーが許してくれても。それなら、好きにならなければいいでしょう? リュド」 一筋の涙を零した後のラミエルの表情は晴れやかだった。 「さぁ、あとは笑って頑張るだけ!」 ラミエルは自分の部屋から出て、地上へと目指す。
to be continued…