前書き
クラゲが空を飛んでいる……。
「……あなたは……一体……」
目の前にいる、浮遊する……物体……何……コレ?
「いつも息子がお世話になってるわね 」
私に向かって物体が頭……胴体(?)を前倒しにする。
薄いブルーっぽい色で、頭?がプリンのような柔らかそうな……それでいて、磯巾着のような触手が108本……。それは人間の煩悩の数なんだそうな。
クラゲ!!
これが第一印象だったの。
「いえいえ、こちらこそ……」
私は深々と頭を下げる。
って……頭下げてどうするの?
「目、見え過ぎだったみたいね~。オプション付けなくていいって言われてたけどつい出来心で付けちゃったから……元に戻しとくわね。でないと息子に怒られちゃう きゃ 」
クラゲは手らしき触手を二本、自分の頬らしき部分へ宛て、笑う。そして、その触手で私の目蓋に優しく触れる。
「……息子……?」
「まーったく、あの子ったら、自分がハルちゃんの目を治すんだーって言って聞かないんだから参っちゃうわよね~」
クラゲの眉が困ったような顔を表現しようとでもいうのか、片方の眉だけが下がる。
「あ、あのぅ……あなたは……一体……、息子って……誰のことを言ってるんですか……?」
「あら、息子はあなたに話してなかったのね? 私はマミー。工藤有里の母親よ♪ お義母さんって呼んでいいのよ。ハルちゃん」
クラゲは大口をだらしなく開け、満面の笑みを浮かべた。
「そうなんですか~。な~んだ。そうじゃないかと思ってたんです」
……本当はウソ……。
「あら、やっぱりバレてた~?」
「いえ~。全然」
だって、わからないよ……このクラゲだよ? 有り得ないって。
「ホホホ。そりゃ、そうよね。こんな美人が母親なんてねぇ~オホホホ」
口に手(?)を当て腰(?)にも手をあて、高らかに笑う。
「……そうですね~。まさか、こんな美人が……」
よくわからないけど、私は話に乗ってあげることにした。
「あら、ハルちゃん話がわかる子ね」
「……マジっすか?」
「ふふ♪」
「……じゃあ……ユーリは……」
「あの子は私の息子なの。最も……父親は地球人だけどね。ハルちゃん、あなたこのこと信じる?」
閉まりのないだらしない口が私に笑いかけ続ける。
「……っ……」
ごくり。
唾を飲み込む音が静かな部屋に響いた。
「……息子……ユーリはあなたのこと、本気みたいだから、いずれ知ることになるでしょう? だったら早い方がいいと思ってね」
「……本気って……どうして……」
私は遊びだって思ってる……だって、まだ、ユーリのことよくわからないし……付き合うのも流れでそうなっちゃって……ユーリは格好いいから他にも居るかもしれないし……。
嫌いじゃ……無いけど……。
「あの子ね、あなたの目の手術、自分でやるって言って誰も手術室に入れなかったのよ。まぁ、仕上げは私でないと出来ないから手伝ってあげたけどね。今まで自分から人に何かしてあげるようなこと、なかったから私うれしくて」
「……じゃあ……この目……ユーリが治してくれたの?」
「そうよ」
「どうやって?」
そんな技術あったら眼科医になれるじゃない!
すごいよユーリ! 将来絶対安泰だよ~!!
「企業秘密♪ 地球人にはまず、無理ね」
「……ですよね…」
ってことは……ユーリは…。
「信じてくれるかしら? ハルちゃん? ……あ、そうだわ、今度こっそりうちへ遊びにいらっしゃいな。ユーリの部屋とか見せてあげるから」
「え……」
「ユーリってね、ちゃんと家から通ってるのよ」
「そ、そうなんですか?」
「だから帰る時道がバラバラでしょ? 宇宙船止める場所毎日違うからなのよ」
「あ、どーりで!! そっかぁ。そうなんですか~謎が解けて良かった~♪」
私はとりあえず話を合わせる。
「あら、帰り道バラバラだから心配してたのかしら?」
「はい」
「あの子、ああ見えて私の旦那様みたいに一途だから浮気なんかしないわよ 私はするけどね♪」
得意気に口元をだらしなく緩めて嗤うクラゲ……。
「は、はぁ……」
何言ってるんだろう……この人……いや…そもそも人じゃないのかな……?
「あのね~。こないだ格好いい子見つけちゃって。その子の手術してあげたの そしたらすっごい喜んでくれて 今度あの子の大事なもの、いただくつもりよ」
「大事なもの?」
はて、大事なものとは何なのか?
……特に興味はないけども。
「そ ど……」
その続きを言われては困るので、私はクラゲの口に手を宛て先を言わせまいと遮る。
「いけません。お母様、それ以上言ってはなりません。ここ、全年齢ページですから」
「あら、そう?」
「はい」
「あら、残念。でも、大事なものを貰うのよ 初めての~るんるん♪ 私上手いからきっと喜ぶわね」
何言ってるんだこのクラゲ。
……なんてことは思わなくって……、
「……お母様って……自由奔放なんですね」
「そおね~♪ ダメかしら?」
楽しそうに話しているユーリの母親らしきクラゲはただただ、
「いえ。羨ましいです」
そう。羨ましいと思いました。毎日がきっと楽しいんだろうな~って。なんだか、素敵に思えてきちゃった。
クラゲだけど。
「ハルちゃん!」
「はい」
「明後日学校休みよね? うちへ遊びにいらっしゃいよ。ユーリは午前中出掛ける用事があるって言ってたからその隙に」
「あ……ありがとうございます」
ぎゅっと、クラゲに手を掴まれる。
「まだ半信半疑でしょ? 百聞は一見に如かずっていうでしょ? 明後日空けておいてね♪」
「は、はい」
クラゲが怪しく嗤いながら言うものだから、勢いに呑まれて私は承諾してしまった……。
「ぢゃ! そろそろ帰らないと彼が心配するから帰るわね~、ばいば~い」
そうしてクラゲは勝手に喋りたいだけ喋り終えると、手を振って浮遊しながら窓へと流れていった。
「あ、窓閉まってますよ」
「え?」
ドンッ!
ぐにゃあペシュ
窓にぶつかったクラゲは窓にへばりついた後、床に落ち、潰れた。
「……あのう……?」
恐る恐る声を掛ける。
クラゲからの返事はない。
よく見ると、干からびているような気がしたので、
「……お湯、掛けてみようかな……」
私はポットのお湯を沸かし、五分後、熱湯をクラゲに注いだ。
「いーお湯ね~……身体が焼けるように熱いわ~」
ムクムクムク。
次第にクラゲは復活し、窓をそっと開けて、
「ありがとハルちゃん。命の恩人♪」
と言ってお湯を掛けた部分を真っ赤に染め飛んで行った。
「……ヤケド……してた……よね……」
その後私は自分の傷を手当てして、やっぱりカップ焼きそばを食べたのでした。
それから明後日経ち、朝早くに私はクラゲの乗ってきた宇宙船に乗せられ、ユーリの星へと行きました。
まさか、本当に本当だったとは思わなかった。でも、不思議に、受け入れることが出来たのは……やっぱり、ユーリが私の目を治してくれたから……想ってくれてたからだと思います。
そして、それから一ヶ月後――。
私は今、日本に居ません。それ以前に……地球ですらありません。
だって彼は……宇宙人なのですから。と言っても、彼は半分は人間なのだそうです。だからちゃんと人間の姿で居られるらしい。
――先日、私がユーリの正体を知ってたことが彼にバレて……。
◇
「実はハルちゃんに言っておきたいことがあるんだ」
「ん?」
学校帰りに突然深刻な顔して言うものだから、何かと思って、驚いちゃった。
「ハルちゃん……俺の秘密を教えるよ……驚かないで聞いてくれるかい?」
「うん」
何だろう? そんなに驚くことなのかな?
「実は――」
なんて少し不安になって、彼が何か言おうとするから、
「俺、実は宇宙人なんだ。しかもとある星の王子で花嫁を探しに来たんだ……でしょ?」
と私は彼が口にする前に話し始める。
「えっ!?」
「身長は160cm以内でバストは86以上、ウエストは58、足はスラリとしている。瞳はクリクリ眼、ついでに俺のワガママを聞いてくれる人がいいナリよ……だっけ?」
私が一息でそう伝えると、
「何でそのこと……」
ユーリはあんぐりと口を開けた。
「お母様に聞いたの」
「マミーに!?」
「うん」
「……それで……ハルちゃんは……どう思った?」
頬に冷汗を垂らしながらユーリは私の顔をじっと見る。
「え? 別にいいんじゃないかな? そういうのも有りで」
「え?」
「……私はユーリが宇宙人でも、そうでなくても構わないよ。ユーリはユーリでしょ?」
私はユーリを安心させたくてにっこりと微笑む。
「……ハルちゃん……」
「……目、治してくれてありがとう。ユーリが治してくれたって、聞いたよ」
「ううん……いいんだ。ハルちゃんのためなら、俺は何だってするよ」
「……ありがとう」
私の言葉に笑顔を返す彼が素敵に見えて、頬が熱くなるのを感じた。ユーリの言葉が私はすごくうれしかったんだ♪
少し……前よりも好きにはなったような気がする。
「…………」
ユーリが何かボソボソと言う。
「ん? 何か言った?」
「ううん。何でもない」
「そ?」
『ハルちゃん。ありがとう。怖がらないでくれて』
ユーリが小さな声でそう言ったのを私はよく聞き取れなかったけど……。私の隣でずっと微笑む彼は何だか幸せそうに見えた。
to be continued…
後書き
宇宙人の彼氏……。※但しイケメンに限る(何言ってんだ)。