彼女のその一言で俺は彼女から出られなくなってしまった。 そして、 「あっ……ああっ!! ンンッ!!!」 「ウィニ……エルっ!!」 彼女の身体が一瞬大きく震えて、その後小刻みに震える。 俺はそのすぐ後に、彼女の中へ最高まで高まった自らを解き放った。 「あっ……熱……い……」 彼女の中に熱い白濁した液体が注がれていく。 彼女は今にも溶けてしまいそうな陶酔した顔で、身体を支えていた手と俺を頼った手の力を抜いて、ベッドへ傾れ込む。 「……ウィニエル……」 「……んあっ……」 俺は全てを彼女に注ぐと、彼女からゆっくりと自らを引き抜いた。 俺が外へと出るとき、彼女は小さく艶っぽい声を上げた。 彼女は俺から自由を得るとうつ伏せに寝るように足を伸ばす。 俺はその彼女の背中に倒れこむようにして突っ伏した。 「……ん……重い……フェイン……」 彼女は自分の上に圧し掛かる重みに身体を捩る。 俺は彼女の両肩上辺りに腕を張り、腕立てをする形で彼女に負担を掛けないよう、身体を支えた。 「……ウィニエル……俺は……」 俺は彼女の髪に顔を埋める。 「……さっきの……どういうことですか……?」 彼女は振り返れないまま、俺に話しかける。 「さっきの?」 情事後の俺は酷く冷静だった。 彼女も酒が抜けたのかすっかりいつも通りに戻っている。 「……フェインは私を憎まないのですか? 殺したいと思わないの?」 彼女は枕の上に腕を交差させ、顎を乗せて少し不満そうに俺に訊ねた。 「……まだ言うのか……またやられたいか?」 俺は彼女のうなじから耳の後ろに軽く舌を這わせる。 「……っ……やっ……フェインて……そういう人だったの?」 彼女は振り返ろうとするが振り返れずに、 「……んっ……ふぅ……私あんなに悩んで馬鹿みたい……」 枕に顔を突っ伏した。 「……ウィニエル。俺は君を憎んだり、恨んだりはしない。セレニスのことは今でも愛しているが、君が俺を説得したことは後悔していない」 俺は静かに彼女から身体を退かし、彼女の隣に移動する。 「…………」 彼女は俺が退いた後も突っ伏したまま黙って俺の話を聞いている。 「俺が君の言った言葉を気にしていないと言ったら嘘になる。だが、こないだのことも、今のことも俺は後悔しないし、俺は生ある限り生き抜くつもりだ。だから君は気にしなくていい」 「……グリフィンのことは……?」 彼女の声が枕を通してくぐもって聞える。 「……グリフィンか……なぁ、ウィニエル。俺と君は似たもの同士だ。一つだけ聞かせて欲しい」 俺は彼女を振り向かせようと彼女の髪に、耳に触れる。 「…………何ですか?」 だが、彼女は枕に突っ伏したまま応える。 「……君は今、俺を必要としているか?」 俺は訊きたかった。 俺はセレニスを愛してその中でウィニエル、君を必要としている。 君はグリフィンを愛してその中で奴を必要としているのか? それとも俺と同じように奴を愛してそれでも俺を必要としてくれるのか? この際、お互い誰を想っているということは置いておいて、だ。 必要なのか、そうでないのか俺は訊きたかった。 以前は君が俺だけを真っ直ぐ想ってくれていると思っていたが、どうやら違った。 その部分で多少の戸惑いはあるが、 その分、君への罪悪感は薄れたのは事実だ。 俺は奴の名前を君が言うのに腹は立つが、君が俺と同じ気持ちを持っていて、本当に理解してくれていると思うと、何となく嬉しい気はするんだ。 そんな君を俺は憎むどころか、前よりも愛しいと思う。 愛しい……? いや、好ましいか。 君を以前より近くに感じるんだ。 俺には君が必要だ。 だから、答えて欲しい。 君はどうなんだ? 「…………はい。私にはフェインが必要だと思います……」 彼女がやっと俺の方を見る。 だが表情は暗く、思い詰めた顔だった。 「……ウィニエル……」 俺はそれでも俺に向かい合う彼女に安堵して、微笑む。 「……でも、それではあなたに申し訳なくて……っ……」 彼女の目に涙が溢れてゆく。 「……それはお互い様だろう?」 俺は彼女に擦り寄り、彼女の首下に腕を回す。 「でも……」 ウィニエルの涙が彼女の首に回した俺の腕に落ちた。 「……お互い様だ……」 俺は静かに彼女を抱き寄せ、優しく彼女の頭を撫でてやった。 「……っ……っフェイぃぃん……ごめんなさいぃぃ!! …………ううっ……ひっく……」 彼女の中で何かが弾けたのか、俺の腕の中でウィニエルは声を上げて泣きじゃくる。 俺は声を上げて泣く彼女に本当の彼女を見た気がした。 彼女は無意識にいつも気持ちを押し殺して来たのかもしれない。 誰にも曝け出すことが出来ずにずっと耐えてきたのかもしれない。 天使と言うだけで頼られ、何も知らない潔癖で廉潔な女だと誰もが君をそう思い込んでいただけなのかもしれない。 グリフィンという奴が君に惹かれたのも何となくわかる気がする。 天使が本来どういうものなのかなんて想像でしかしたことはないが、こんなにも弱く脆く人間くさい天使は君以外に居ないだろう。 君がアルカヤに来てくれて良かったと俺は心の底からそう思うんだ。 「……グリフィン……」 一頻り泣いた後、落ち着きを取り戻した彼女は俺の腕の中で奴の名を呟いた。 「……また言ったな……」 俺は彼女の肩を乱暴に剥がした。 「え……? きゃっ!? フェイっ!? ンんっ!?」 そして、俺は彼女に初めて口付けをする。 彼女の柔らかい唇の感触が俺の唇に伝わる。 俺は彼女の口の中へ舌を差し入れた。 「ん!? んんっ……!!」 彼女は刹那驚き、目を丸くしたが抵抗せずに俺の口付けを受け入れた。 「……んんっ……フェイ……ン……っ……ふぁっ……息が出来な……」 彼女の舌と俺の舌が夢中で絡み合い、ほんの少し離れると糸を引く。 「んんっ……」 彼女の唾液は甘すぎて、俺はそれに酔ってしまいそうだった。 「……その名前は聞きたくない……ん……」 それから俺は彼女の唇から顎へ、顎から首筋へ、首筋から乳房へと舌を這わせ移動させる。 「……あっ……フェイン……や、やだ……また……!?」 彼女は困惑した表情を浮かべる。 「……君がルールを破るからだろう?」 俺は悪戯に微笑んでみせた。 ウィニエル、まだ償いは終わってない。 「そ、そんなぁ……!!」 彼女は顔を赤く染めて再び俺に身体を弄ばれる。 君がこんな時に奴の名前を口にするから悪いんだ。 けれど、その後俺は極力彼女に負担を掛けないようにして、何度か身体を重ねた。 彼女は途中でバテたのか何度も謝っていたが、 『グリフィンはこんなことしなかったのに……』 俺は彼女が奴の名を出す度に頭に血が昇り、中々彼女から離れることが出来なかった。 「……フェインの……えっち……」 一息つくと、彼女は小さくぼやく。 「…………お互い様だと思うが……」 俺は一晩中彼女に翻弄され続けたことをぼやいた。 「……っ……」 彼女は黙り込んで顔を赤くした。 それを見ると、あながち外れてはいなかったようだ。 まさか君は俺を誘っていたのか? まぁ、こんな風な誘い方なら大歓迎だがな。 最終的には俺も疲れ果ててしまい、互いに黙り込む。 そして暫く経って彼女が先に口を開いた。 「…………明日はゆっくりしませんか?」 「…………ああ、一緒に寝ていよう」 いや、そういうことじゃなくて……。 彼女が冷汗を掻いて苦笑いを浮かべた。 いや、そういうことじゃなくて……。 俺が冷汗を掻くと、彼女は、 「…………おやすみなさいっ!!」 自分が言ったことが恥ずかしかったのか俺に背を向けて寝てしまった。 でもそういう所が俺は可愛いと思う。 「……おやすみ、ウィニエル」 俺は彼女のうなじにやんわりと唇を触れさせた。 「…………おやすみなさい……フェイン……」 振り向かないまま、彼女の優しい声が聞えて、俺は眠りについた。 ウィニエル、俺達は似たもの同士だ。 いつか、俺達は共に同じ未来を歩むことが出来るだろうか? いつか、そうなればいいと俺は思っている。 全ては堕天使を倒してから――。
to be continued…