「……ウィニエル……手を出したら冷えるぞ……?」 彼は私が手すりを掴んだために僅かに出来た隙間から冷たい風が入ったことに気付き、私をローブから出さないように引き寄せ、強く抱きすくめる形で私の耳元で囁いた。 彼の声は、私の全神経を痺れさせる。 お願い、フェイン。 それ以上こんな至近距離で喋らないで。 「……ンッ……あっ!!」 私は自分から出た声に驚いて、手すりに掴まっていた手で慌てて口を塞いだ。 「ウィニエル? どうかしたか?」 彼はわざとなのか、話すことを止めてくれなかった。 彼の熱い吐息が耳の後ろから首筋に掛けて僅かに触れていく。くすぐったくて身を捩ってしまいそうだ。 泣きたくなるというのはこういうことなのか。 ……そう、思っていた。 私の考えが甘かった。身体の火照りを拭うために外に出てきたのに、これじゃあ、いくら気温が下がっても身体は火照る一方だ。 私はいつでも彼に抱かれたいと思っているのに。 彼が呆れるほどにもしかしたら変態かもしれないのに。 こんなに身体が密着していたら変な気分になってしまう。 「ウィニエル……どうしたんだ」 彼の熱い息が再び耳に掛かり、私の眉は勝手に強張ってしまう。 そして、身震いも私の意思とは無関係に。きっと鳥肌が立っているに違いない。 「いやっ……!!」 私は理性を保とうと首を左右に何度も振るう。 「……ウィニエル……何かあったのか?」 それでも、彼の声は私の理性を少しずつ削っていく。 「なっ……何もありませんっ……」 私のなけなしの理性が首を横に振り続けることだけを命令していた。 「……ウィニエル、俺の目を見てくれないか?」 彼の手が私の顎を掴もうとする。 「いやっ……見れませんっ……」 私はそれを払うように逃れた。 「……全く、突然どうしたんだ? ほら、こっち向い……」 フェインは私を自分の方へ向けようと腰に手を回したけれど、私はその手を両手で押さえた。 「……っ……フェインはっ……平気ですかっ?」 私はそう告げると自ら彼の方へ顔だけ向けた。冷たい風が私の耳裏辺りから動いた隙をついて入って来る。 「平気って…………」 彼は自分を涙目で見上げている赤ら顔の私と目を合わせて制止した。 「……わ、私……あなたと居ると、おかしくなってしまうみたいです。ローブ……やっぱりフェイン一人で使って下さい。私は平気ですから」 私は目を固く瞑りながら彼に告げ、一歩彼から離れてあの冷たい手すりを掴んで空を見上げた。 「ウィニエル……。おかしくなったのは……俺の所為だろ?」 それでもフェインは私を包むようにしてローブの中へと引き戻す。 「……いいえっ……私が悪いんです……」 私は恥ずかしくて泣いてしまいそうだった。 いや、実際泣いていたような気もする。 一緒にローブに入っていると確かに温かい。 でも、この温もりは熱すぎて、私は溶けてしまうんじゃないかと思う。 ――私には熱すぎる。 「さっきの質問だが……」 彼の振動が耳元で私の神経を刺激し続けている。 「……っ……あの……耳元で……話すの……やめて……もらえませんか……?」 私は顔を顰め、掠れた声でたどたどしく告げた。 「ああ……すまない。……ん? 俺の声が駄目だったのか?」 彼は今気が付いたのか少し声のトーンを上げる。 その声なら、我慢出来るかもしれない。 「駄目というか……その……フェインの声……すごくぞくぞくするんです」 私は素直に思ったことを彼に告げた。 「…………。ウィニエル……さっきの質問だが……」 フェインの表情は見えなかったけれど、彼は少し間を置いてから話し始め、 「はい……」 私が返事をすると、彼の腕の力が強くなった。 「……俺はな……平気……じゃないぞ」 「え……? あっ……っっ!?」 フェインの私を抱きしめていた両手が腰から離れ、左手は私の乳房を、右手は太股へと這うように移動する。私は咄嗟のことに驚いて大きな声を上げていた。 「……ウィニエル。君の身体は敏感過ぎる……」 フェインはそう告げながら左手で私の乳房を玩ぶ。下から持ち上げるようにして、その中心には触れないように、ゆっくりと優しく揉みしだく。右手は私の太股を弄り、指の腹を摺り寄せるようにして内側へ内側へと沿わせ、その手は次第に足の付け根へと上がってゆく。 フェインの右手人差し指と中指とがショーツの上から私の秘部を僅かに擦るように、何度も往復している。 「っ……んっ……っ……!!」 私はそれを制止しようと彼の手に自分の手を添えた。途端、私はローブの中から外れてしまう。 「……ウィニエル……ちゃんと包まっていろ。俺は構わないが……君はこんな所を見られたら恥ずかしいだろう?」 フェインは苦笑しながらそう告げる。 それはそうだった。 だって、今の私の格好ときたら。 左胸はフェインの左手によって持ち上げられ、彼の指が肌に食い込んでいる。下半身には彼の右手がショーツの割れ目に添えられ、どちらもゆっくりと蠢いている。 なんて淫らな格好なんだろう。 「あっ……だっ……だって……」 翼を消している今、人前で姿を消すことなど出来ないのだ。翼が天使である証拠であり、力の源。 ただでさえ、下着姿なのに。 でも、こんな所で? 部屋に戻れば済むことなのに。 こんな所で? 「……ちゃんと包まっていろ。押さえておくんだぞ?」 フェインは私を一時解放し、ローブ内へ引き入れ私に先程のように前身ごろを押さえるようにと告げた。 「あっ……フェイ……んっ!!!」 私がローブを掴むと、フェインの指が急いたようにショーツの中へと侵入して来る。指は這うようにして私の薄い毛の間を抜けて、突起の周りをなぞる様に円を描いていく。 そして核へは触れないでその周辺を往復し始めた。 「……ウィニエル……大きな声は出すなよ……?」 彼はその声と共に、私の耳裏に自らの舌を這わせる。 「ふっ……!」 私はそれだけで身震いしてしまう。肩が小刻みに震えていた。 恐いわけでも、寒いわけでもなかった。 身体が勝手に反応してしまった、それだけのこと。 「……君は……耳が弱いのか……」 フェインは「はぁ……」と熱い吐息を耳元に吹き掛け、私の耳を舐めた後、耳朶を甘噛みしてから軽く吸った。その間も、彼の左手は乳房を揉み続け、右手も尚、私のショーツの中を徘徊していた。 どちらも焦らされているのか、核には触れていないのに背中に微量な電気が走り続けている。 もっと、中心に触れて欲しいのに、彼はわざとなのかそこには触れてくれない。 「んんっ……」 なだらかな愛撫が嫌いなわけじゃない。ずっとこうしててもいい。 でも、もう少し強い刺激が欲しい。 けど、彼は応えてくれない。 なら、私は。 「ウィニエル……もっと足を開いて……」 「や……嫌……です……」 私は首を横に振るう。 足は開かなかった。でも、固く閉じるように努めたが、そんなに力は入らない。 だって、彼は意地悪だ。 私を玩んでいる。 もう少しの所で性感帯、私の弱い場所まで辿り着けるのに時折そこに僅かに触れても、それ以上は刺激を与えてくれず、わざとその手前で行為を繰り返している。 こんなんじゃ。 こんなのは、イヤ。 彼と初めて身体を重ねた時があまりに衝撃的だったから。 “こんな愛撫じゃ満足できない” ……そんなこと口が裂けても言えない。 言ってしまったら私は恥ずかしさで死んでしまうかもしれない。 「んはっ……」 私の声はそれでも甘くなってゆく。 彼の声と彼の指、それだけで私の身体は感じてしまっているのだ。さっき抱かれていた余韻が残ってるからかもしれないし、何度となく回数を重ねた彼の所為でそういう身体になってしまったのかも。 もっと、真ん中まで、優しく強く時に激しく、私を壊して。 ……勝手に頭の中にそんなフレーズが過ぎる。 彼なら応えてくれる。 でも、そんなこと言えるわけない。 私は天使なのよ? 快楽は悪魔の所業。 その一言を言ってしまったら私は堕天使になってしまう。 ああ、でも……もっと彼を感じたい。 「……もっと気持ちよくなりたいのだろう?」 「っ!?」 彼の言葉に私は目を見開いた。 彼の魔法に掛かって翻弄されていた私は、また彼の言葉によって一瞬正気を取り戻す。 「……指が足りないなら、自分の指も足せばいい」 フェインが薄っすらと悪戯な笑みを浮かべた気がした。 「ンッ……なっ……!?」 その言葉に私の耳までもが熱くなっていく。 「……俺が教えてあげよう……」 「えっ……っ……」 フェインは私の左乳房から手を放して、私の右手を取り、私のショーツの中へと誘う。 「……どこが一番感じるのか、自分が一番わかるだろう?」 私の右手がショーツの中に入ると、彼の左手に代わって右手が私を招き入れた。そのフェインの手が私の手の上に組み代わり、彼はまず指を絡める。 「……っ……」 私は首を横に振るう。 私のショーツの中で彼の指と私の指はねとねとと、とろみを帯びて互いの指が緩く粘着するように絡まりあった。 絡まり合っては離れ、また絡まる。 離れた拍子に微かに空気が触れて私の指と彼の指の間にそれは入り込むけれど、粘着質な液体が纏わりついて糸になり、彼と私を繋いでいるそこに空気は触れない。 私は自分の身体の反応が恥ずかしくて、目を固く瞑った。 「……ウィニエル。大丈夫、恥ずかしくない。これはさっきのだから」 フェインは耳元で告げた。
to be continued…