贖いの翼・番外編7:空腹④ フェインside ★

「あっ……だめっ……」

 彼女との結合部分から小さく、俺と擦れ合う粘着質の音が聞こえる。
 俺に掴まれた彼女の手が拳を握って上下し、大きな胸が俺の目の前で突き上げられる度に揺れている。
 突き上げる度に彼女から溢れる粘液が纏わりつき程好く俺を刺激する。

 滑りは悪くない。
 痛がってはいたが、出血はなさそうだ。

 だが、一人では中途半端なのか、俺はただ彼女の奥で蠢いているだけだった。
 ウィニエルもそれだけでは充分満足できないだろう。

 もう少し強い刺激があれば……。

「……っ……ないか?」
「ん……何……」

「君も……動いてくれないか……っ……」

 俺は懇願するように彼女の胸の谷間に顔を埋める。服は脱がせていないから形のいい乳房は拝めないが、弾力だけは服越しでも変わらなかった。耳から垂れた前髪がそこに掛かり、彼女の甘い香りが馨る。

 彼女も動いてくれれば、互いに心地よくなれる。

「……こ、こう……?」

 遠慮がちに彼女の腰が浮く。

「抜けないように……」
「は、はい……あっ……」

「くっ……ウィニ……エ……」
「ぁ……んん……」

 彼女の腰が浮いて、俺が抜ける既の所で、彼女はまた戻ってくる。
 数回繰り返すと、ウィニエルの声から苦痛の音が消え、甘さだけが残った。

 蜜壷の内壁が愛液を潤滑油にし、先程よりも強い刺激で俺を乱暴に扱いている。
 何とも言えない快感が俺の背中を這い始めると、俺も彼女に負けじと腰を突き上げた。

「あっ、いやぁっ!」

 ウィニエルの目が虚ろに、口角から唾液が零れる。
 もう痛みも、冷静さも失ったようだ。

「っ……ウィニエル……そ、そう……だ……」

 彼女が上下に動く度リズム良く、腕も、胸も大きく揺れる。
 合間不規則に俺の動きが加わると、彼女のリズムを乱し胸の動きが多少ずれた。
 その動きを見るだけでも俺は興奮して、一層腰の動きを早める。

 だが、今回の興奮材料はそれだけじゃなかった。

 ショーツを着けたままにしたからか、斜めから挿入する破目になったわけで、その所為で彼女のショーツまでもが俺を刺激している。

「やっ、やっ、本当……だめっ!!」

 ウィニエルもいつもと違う感覚に身体を翻弄され、既に何度か軽い快楽の波に呑まれているようだった。服越しだが彼女の胸の尖りが勃起しているがわかる。

「まだ、いかないでくれよ……っ……」

 俺はそう告げ彼女をいかせないように、ある一定の快楽を与えつつ、服越しに彼女のつんと立った尖りを咥えながら腰の動きを緩めたり強めたりした。


 いつもと違う感覚を同じように感じているなら一緒に達したいじゃないか。


「っ……ふぇ、フェインっ!」

 ウィニエルが手首を掴む俺の腕を振りほどき、その手を俺の肩へと乗せ、指を食い込ませる程の力で強く掴む。

「……っ……あ、ああ……」

 俺は彼女の言わんとすることを理解し、頷いた。
 すると、彼女の腰の動きが先程よりも早くなる。

 彼女も俺と同じ気持ちなのだ。
 一緒に昇り詰めたい。



 ――それからは猿だ。



 無我夢中で互いに腰をぶつけ合う。
 善がり声も何も、耳に届かない程に夢中だった。

 静かな空間に淫猥な粘着音と、男女の荒い息遣い。
 服が擦れ合う音。
 それら全てで淫らな空間を醸し出す。


 堕天使が見ていようが構わない。
 むしろその方が今の俺達にとっては興奮材料の一つとなるだろう。

 ウィニエルに手を出したいのだろう?
 地に堕ちそうで決して堕ちない天使は、堕天使にとって落とし甲斐のあるいい獲物だ。

 だが、残念だったな。
 ウィニエルには指一本触れさせやしない。

 指を咥えて見ているがいい。

 俺はこの天使と一緒にお前達を倒してやる。


「あっ……フェインっ……んんんんんっ!!」


 ウィニエルの指が俺の肩に食い込み、その指が小刻みに震えている。
 彼女は俺を待てずに先に達してしまったらしい。

「ご、ごめ……なさ……あぁ……あああああンンッッ!!」

 彼女の身体が大きく痙攣し、瞳から透明な雫が一滴だけ零れ落ちた。

「……ああっ……構わな……俺もっ……」

 俺の欲望が高まり、一点に集中しているのがわかった。
 彼女が達して一、二秒もしない内に俺の背にも寒気に似た震えが来る。

 どくん。

 と、

 彼女の中に埋まった俺が一瞬、大きく脈を打った。

「くっ……」
「あっ……!」

 俺が声をかみ殺すと同時、彼女が眉を顰める。大きく脈打つ感覚が何度かして、それと一緒に彼女の中に俺の白粘液が注がれていく。

「あああっ……」

 彼女が震えながら、肩を掴んでいた手を支えられないのか、首に手を回して縋りつき、喘ぎ声をあげた。
 そして、彼女の蜜壷から未だなだらかな蠢動があり、俺の精子を全て吸い上げようとしているのがわかって、俺は全て注ぐように快楽を感じながら、尚も腰を一定のリズムで突き上げる。

「フェインんんん……あ……ん」

 彼女の甘い声が耳に掛かった。


 ……それはとても熱く感じた。


 全てを注ぎ終えると俺は腰の動きを止め、ゆっくりと身体を壁に凭れ掛け、俺に身体を委ねる彼女の背に腕を回し優しく抱きしめる。

 そして俺はそのまましばらく動かなかった。

 ウィニエルも動く元気がないようで、俺達は繋がったままの形で抱き合っていた。
 服を脱がずに行為に及んだから、一見したらただ寄り添って抱き合っているだけのように見えるのだろうが、一箇所だけは濃密に繋がっている。


◇


「……私の中……フェインでいっぱいです……」

 しばらく経って、彼女が呟く。

「……ああ、そうだな……」

 ウィニエルの言葉に俺はくすりと笑った。

 誘い文句のような物言いだが、きっと彼女は無意識なんだろう。
 そう思ったら自然と笑みが零れる。

「……あ、そういえば……私、アメ持ってますよ?」
「ん? アメ……?」

 彼女が唐突に告げた。

「ちょっと待って下さいね」と、彼女が腕を背後に回し翼を探り始める。

「?」
「ええと……あ、これこれ」

 状況が飲み込めない俺に、ウィニエルの腕が前に戻ってくると、その手に薄い紙に包まれた大きな赤くて丸い飴玉が乗っかっていた。

「はい、どうぞ」
「ん?」

「フェイン、お腹空いてたでしょう?」

 ウィニエルが包み紙を解いて、俺の口元に飴玉を差し出す。

「はい」

 という彼女の声に俺は頭を振った。

「食べないんですか? 甘くておいしいですよ?」

 彼女は不思議そうに俺を見つめる。
 甘い物が苦手というわけじゃないが、飴玉とはまた、子供じみたものを……。

 ふむ……どうしたものか。

 あ。

「君が食べるといい」
「はむっ!?」

 俺は彼女から飴を取り去り、彼女の口へと押し込んだ。

 コロリ。
 と彼女の頬から飴玉が歯を擦る音が聞こえる。

「……あま……フェインは要らないんですか? アメ一つしかないんですよ?」

 ウィニエルは器用に頬の奥に飴玉を追いやって話す。

 刹那、

 ぐぅ。

 と、再び忘れかけていた腹の虫が鳴った。

「ほら、お腹空いてるじゃないですか」

 ウィニエルは俺を訝しそうに見る。


「……そうだな、貰おうか」
「……え? だから、アメは一つしか……」

「ああ……わかっている」

 俺は彼女の腕を引いて、唇を重ねる。

「はうぅむ!?」

 驚く彼女を尻目に、俺は大きな飴玉を探るように口腔内に舌を差し入れ、彼女の口の中を探索した。

「んふぅぅぅ……」

 ウィニエルが再び頬を赤く染めて俺の愛撫を受け入れる。

「……ああ……甘いな……」
「んむぅ……」

 コロリ、コロリ。

 と彼女の頬から飴玉が歯を擦る音が聞こえる。
 互いの口角から涎が溢れ、俺達は夢中になって口を吸い合う。

 今ある食物は一つだけ。
 一つの飴を二人で食べているだけだ。

 これなら、キスとは言わないだろう?

 何て……、俺は卑怯にもセレニスに向けた言い訳を考えながら、彼女の口腔内を弄る。

「んふぅうう……」

 ウィニエルは俺の愛撫を受けながら、抵抗はしないが頬を上気させ苦しそうに涙を溢した。
 行為に及んでいる時は涙など殆ど溢さなかったのに、彼女は口付けを交わすと何故か泣く。

 痛みなどないはずなのに。

 身体はもう、何度も繋がっているのに。
 今だって繋がっているままなのに。

 どうしてそう思うのかわからないが、彼女と繋がっていない気がする。
 繋ごうとしても一時近づくだけで、


 ――俺達は決して結ばれてはいない。


 見えない隔たりに阻まれている。

 天使だから、
 勇者だからじゃなく。

 想っているとかいないとかじゃなく。
 セレニスのこととか、あいつのことじゃなく。


 隔たり。


 その全てが原因でもあるような気もするが、きっと互いの気持ちが噛み合っていない。


 隔たり。


 気持ちは同じはずだが、噛み合うことはない。
 歯車がずれてしまっている。

 それが直ることはない。


「……ん」

「ん?」

 コロリ、と。

 ウィニエルの口から俺に飴玉が押し込められる。

「……食べないのか?」

 俺が訊ねると、

「……フェインに差し上げます」

 ウィニエルの唇が離れた。


 コロコロ。


 俺の口の中から飴が歯を擦る音が聞こえる。

「他に何か食べ物を持っていれば良かったんですけど……」

 ウィニエルは再び翼を探るように腕を背後に回したが、何も見つからないようで直ぐに手を戻した。

「…………」

 俺はそれを黙って見つめながら飴玉を転がす。

 コロコロ。

 飴が転がる音がする。

「……あの、フェイン。そろそろ抜いても……いいですか?」

 ウィニエルが俺を窺いながら申し訳なさそうに告げた。

「…………」

 コロコロと。俺は飴玉を転がす。
 甘いだけだと、今まで気が付かなかった飴玉の味。よく味わってみれば酸味がある。
 甘酸っぱい苺の味が口腔内に広がっていく。

 彼女の中に埋まった俺はもう随分と収縮し、柔らかい彼女の内壁に包まれている。
 さっきまではきつく擦り上げられ、無我夢中で快楽の頂点を求めていた場所なのに、今はどうだろう。
 ここに留まっているだけで安心感がある。

「……フェイン?」

 彼女は首を傾げて俺を伺う。

「……もう少し、このまま……」
「……はい……」

 俺は彼女に切願するように告げていた。彼女も直ぐにそれを承諾する。

 彼女は俺が望めばその通りにしてくれる。
 ただ、収縮した俺と彼女の間から白い液体が少しずつ零れる感触がむず痒いのか、時折小さく内壁が動いていた。緩やかにまだ俺を包むその温かい感覚が何とも心地いい。


 ぐぅぅ。


 またも、雰囲気をぶち壊すように俺の腹が鳴る。

「……ふふっ、フェインのお腹、今日はよく鳴りますね」

 ウィニエルがやっと無骨で無神経な俺の腹を笑った。


「……ああ、何か食べないとな」


 俺が告げると、彼女は「はい」と言ってから声を潜めて笑う。
 そして俺はコロコロと、飴玉を転がしていた。

to be continued…

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